高橋誠『かけ算には順序があるのか』(岩波書店)

事実は小説よりも奇なり。なんだかいろんな意味で、最近ちょっと小説が喉を通らない。

本書は、算数教育史家の著者が、かけ算の順序をめぐる論争を「算数教育」と「数学」との往復の中で過去にさかのぼって整理したもので(第1章)、そこから「九九」の歴史、世界の「九九」(第2章)、さらには序数と基数の話(第3章、少し唐突でいささか蛇足気味)にまで話がふくらんでいく。1950年代には文部省はかける順序を明示していたが、現在では文科省としては順序があるともどちらでもいいとも明言していないらしい。かけ算の順序問題に対する著者の結論は「量のかけ算にも交換法則が成り立ち、同一の事態を同一に解釈して記述が異なるだけのものの片方だけを不正解とするべきではない」というものである。

混乱の根源は、抽象的な数学と生活単元学習的な算数との違いがあるところに、さらに計算の手段であるはずの式に国語的意味を盛り込んだところにあるのだろう。本書の出版は2011年なのだが、残念ながら10年経っても相変わらず同じことが日本中で起きていて、今日もtwitter上では、かけ算の順序をめぐる、親と教師と数学者たちのバトルが繰り広げられている(結局、先生がどれだけ数学の素養を持っているかに尽きる気がするのだが、小学校のすべての先生にそこまで期待するのは酷。これは教科教育法一般にいえることで、社会科教育の世界にもある話)。

さあて、めんどくさいと文句いいながら「さくらんぼ計算」を無事に乗り越えたうちのチビは、次に立ちはだかるこの順序問題にどう立ち向かうのだろう?

 (こ)