2019-01-01から1年間の記事一覧

プラトン『パイドン——魂について』(納富信留訳,光文社古典新訳文庫)

『テアイテトス』を刊行したばかりの光文社古典新訳文庫から,またプラトンの新訳が出た。『パイドン』である。副題は『魂について』。 ソクラテスの弟子の1人パイドンは,「ソクラテス最後の日」に立ち会う。そこでソクラテスと弟子たちとの間で取り交わさ…

成井豊・真柴あずき『俺たちは志士じゃない』(論創社)

5月31日、突然、演劇集団キャラメルボックスが活動を休止するというニュースが飛び込んできた。それも発表したその日のうちに。 「上川隆也がかつて在籍していた」という枕詞で語られるこの劇団だが、たしかに彼が看板役者であったことは事実だが、個人的に…

朝井リョウ『死にがいを求めて生きているの』(中央公論新社)

既に読み終えてから4,5日経つが,まだこの小説のインパクトから抜け出せないでいる。朝井リョウ『死にがいを求めて生きているの』。 北海道の病院で植物状態のまま眠り続ける「智也」と,これを見守る「雄介」。2人の間に横たわるのは,友情か,それとも…

大澤真幸『社会学史』(講談社現代新書)

新書のジャンルに「自立本」というのがあるんだそうで、自立するくらい分厚い新書本のことをいうらしい(そのまんま)。 本書も本文630ページの自立本。税別1,400円だから1ページ2円ちょっと。内容は、大澤真幸先生が、講談社の編集者さん相手に社会学史の講…

東野圭吾『パラレルワールド・ラブストーリー』(講談社文庫)

東野圭吾の『パラレルワールド・ラブストーリー』が,玉森裕太主演で映画化されるとのこと。 東野圭吾。一時期よく読んだなあ。そういえば昔,せんせいのウェブサイトに最初に投稿した書評は,確か東野圭吾の『秘密』だったか。 『パラレルワールド・ラブス…

吉田兼好作・佐藤春夫訳『現代語訳 徒然草』(河出文庫)

本棚からポトリと出てきたのが、15年前に買った『徒然草』(佐藤春夫訳)。 『徒然草』は高校生のときにも古文の授業の教材に出てきたし、その後もひととおり読んだつもりでいたものだが、兼好法師の「つぶやき」の意味は、人生の後半になってこそ、味わいが…

ジョージ・オーウェル『一九八四年』(高橋和久訳,ハヤカワepi文庫)

映画『キングダム』見てきました!いや~,思っていた以上によかった!原作の再現度がすごい! ・・・っていうか,そもそも映画として面白い!!・・・続編,作るのかなぁ。 --- さて。 ゴールデンウィークにちょっと時間ができたので,たまには骨太の本でも…

青木理『安倍三代』(朝日文庫)

安倍晋三は、岸信介の孫である。 同時に彼は、政治家・安倍寛の孫でもある。その血は一粒種の晋太郎に受け継がれ、そして晋三へと連なっているはずである。しかし、晋三からは「安倍」カラーが見えない。 それはなぜか。 筆者は晋三のもう一方のルーツを求め…

橋本治『思いつきで世界は進む』(ちくま新書)

先ごろ亡くなった橋本治について,橋爪大三郎が熱烈な追悼文を寄せていた。 「さようなら橋本治さん」~ひとの死とは何か、を考える(橋爪 大三郎) | 現代ビジネス | 講談社(1/2) そうか,このお二人,面識があったんだな。・・・などと思っていると,今…

遠藤周作『反逆(上・下)』(講談社文庫)

大先生、新天地での1ヶ月、おつかれさまでした! さて、遠藤周作は荒木村重をどう描いたのか。 主な登場人物はほぼ同じ。織田信長と、信長を裏切った松永久秀・荒木村重・明智光秀(そして実は羽柴秀吉もそのひとり)を軸に、賤ヶ岳の合戦に勝利して秀吉が天…

伊坂幸太郎『シーソーモンスター』(中央公論新社)

おっつかれさま~っ!・・・とにかく全力で駆け抜けた1か月であった。 ---さて。 伊坂幸太郎の呼びかけで始まった8組9名の作家による競作企画「螺旋プロジェクト」。『シーソーモンスター』は,呼びかけ人・伊坂幸太郎自身の単行本であり,中編2編を収め…

上田秀人『傀儡に非ず』(徳間時代小説文庫)

摂津・有岡城の荒木村重が信長を裏切り、一族郎党皆殺しになりながら本人は生き延びたというエピソードは、断片的には知っていて、どっちかというと、大河ドラマで黒田官兵衛を土牢に監禁した人というイメージの方が強かった。 なぜ村重が信長を裏切ったのか…

木皿泉『カゲロボ』(新潮社)

木皿泉,3作目の小説である。『カゲロボ』。 日常生活にロボットがこっそり溶け込んでいる世界。ささやかな「罪」と「赦し」を描いた連作短編集である。 これまでの『昨夜のカレー,明日のパン』や『さざなみのよる』とは異なり,ちょっとダークな描写も出…

前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社新書)

バッタ研究者の前野氏が、2年間滞在したモーリタリアでの研究生活をまとめたものである。それが一筋縄ではいかない。 トラブルをものともせず前進する生命力はサイバラ先生を彷彿とさせる。仮説を立ててすぐに実験するあたりは科学者としての真髄を見せ、相…

半藤一利『日本のいちばん長い日 決定版』(文春文庫)

今年度の本屋大賞は瀬尾まいこ『そして,バトンは渡された』に決定!おめでとうございます!! いや~,良かった!! --- さて。 引っ越しの時って,みんなどんな本を携帯しているんだろう。僕はやっぱり,あれかな。名著だと言われている本で,文庫になって…

ジョン・クラッセン(長谷川義史/訳)『ちがうねん』クレヨンハウス

大先生、本屋大賞、おめでとうございます! ホーキング博士の本を紹介した直後に、ブラックホールが撮影されるなんて、これもまた、大先生、やりましたね! さて、この1週間に読んだ本がことごとくハズレだったので、今週は絵本。 大人が気に入った絵本と子…

スティーヴン・ホーキング『ビッグ・クエスチョン―〈人類の難問〉に答えよう』(青木薫訳,NHK出版)

北の大地からの初投稿。 昨年亡くなられたホーキング博士。その最後の書き下ろし本である。『ビッグ・クエスチョン―〈人類の難問〉に答えよう』。 「神は存在するのか?」「宇宙はどのように始まったのか?」など10個の「ビッグ・クエスチョン」にホーキン…

綿矢りさ『手のひらの京(みやこ)』(新潮文庫)

奥沢家長女・綾香 = 31歳にして婚活開始。次女・羽依 = OL、かなりモテる。三女・凜 = リケジョ(M2)、異性に興味なし。お母さん = 60歳になったので主婦の定年を宣言。お父さん = にぎやかな女系家族の中でいつもマイペース。 京都本コーナーに平…

佐藤友哉『転生!太宰治2 芥川賞が,ほしいのです』(星海社FICTIONS)

今年度の本屋大賞発表まで,あと10日余り。本命不在の中,近年まれにみる大混戦となることが予想されます。 個人的には,瀬尾まいこ『そして,バトンは渡された』を推したいです。波乱万丈のストーリーでも,ドラマティックな展開でもない。そもそも決して…

寮美千子編『空が青いから白をえらんだのです 奈良少年刑務所詩集』(新潮文庫)

作家の寮美千子氏が、奈良少年刑務所が受刑者を相手に実施している「社会性涵養プログラム」の一環として、童話や詩を使った情操教育に取り組んだ記録である。 凶悪犯罪を犯して服役している20歳そこそこの青年たちが、幼な子のように自分をさらけ出して、の…

今村昌弘『魔眼の匣の殺人』(東京創元社)

今村昌弘。デビュー作『屍人荘の殺人』のインパクトは大きかった。「このミス」「週刊文春ミステリーベスト10」「本格ミステリベスト10」でいずれも1位(国内部門)を取り,何と本屋大賞でも3位にランクインした。 その今村昌弘,待望の2作目である。…

「グリーンブック」(2018年、アメリカ)

今週は映画です。 アカデミー賞は「差別」と「そっくりさん」が交互に受賞しているイメージがあって、今年は差別ものの年だった。とはいいつつも、王道をいく作品づくりで、安心して見ていられるものであった。 舞台は1962年アメリカ。黒人天才ピアニスト・D…

半藤一利『B面昭和史 1926-1945』(平凡社ライブラリー)

これも待望の文庫化である。半藤一利『B面昭和史 1926-1945』。 ベストセラー『昭和史 1926-1945』の姉妹編である。『昭和史 1926-1945』では政治,経済,外交といった「A面」について語られていたのに対し,こちらの本では「B面」,すなわち一般市民(半…

波多野誼余夫・稲垣佳世子『無気力の心理学 やりがいの条件』(中公新書)

この1週間は、学年末考査の作問実施採点(ただいま徹夜で採点の途中・・・)に明け暮れ、その合間には心理学系の本しか読まなかったので、2週連続で申し訳ないです。 いちばんおもしろかったのが、先週の『人はいかに学ぶか』の前に書かれた『無気力の心理学…

垣根涼介『室町無頼』(全2巻,新潮文庫)

「文庫化されたら読もう」と思っていたところ,文庫化された。この2月はそういう作品が多かった。これもその一つ。垣根涼介『室町無頼』。 応仁の乱より少し前の,京の都。治安は乱れ,町には餓死者があふれている。少年・才蔵は,ならず者の頭目にして市中…

稲垣佳世子・波多野誼余夫『人はいかに学ぶか 日常的認知の世界』(中公新書)

「わかってくれた」と思っていた相手がほんとうのところはわかっておらず、実は「わからない」ということがわからなかった、というできごとがあって、「わかる」とは何か、ということについて考えさせられることがあった。 いわゆる「メタ認知」というやつに…

プラトン『テアイテトス』(渡辺邦夫訳,光文社古典新訳文庫)

光文社古典新訳文庫では,1,2年に1冊くらいの割合でプラトンの著作を刊行している(僕もずっと読み続けている。)。本が売れない,ましてやギリシャ哲学の本などそうそう売れないのではないかもと思われるこの時代にあって,貴重な存在である。 今回,『…

スティーブン・レビツキー、ダニエル・ジブラット『民主主義の死に方 二極化する政治が拓く独裁への道』(新潮社)

フォローしているtwitterのタイムラインでは国会のようすが逐一報告されている。一昔前なら「こんなことがあったら内閣ぶっ飛ぶでしょ!?」というようなことが、笑うくらいに次々とレポートされるのだが、それがしれっとスルーされて、テレビのニュースでは…

米澤穂信『本と鍵の季節』(集英社)

ざらり,とした後味の残る連作短編集。米澤穂信『本と鍵の季節』。 高校生の「僕」と,その友人の松倉詩門(しもん)。2人は学校の図書委員である。ある日,先輩がやってきて,2人に頼み事をするのだが・・・。 高校生活を舞台にした,全6編のミステリで…

辻村深月『凍りのくじら』(講談社文庫)

『ぼくにとっての「SF」は、サイエンス・フィクションではなくて、「少し不思議な物語」のSF(すこし・ふしぎ)なのです』(藤子・F・不二雄) 高校生の理帆子と、失踪した写真家の父、ガンで闘病する母、両親の親友で世界的ピアニスト・松永、ストーカ…