朝比奈なを『進路格差 <つまづく生徒>の困難と支援に向き合う』(朝日新書)

 職業柄、教育関係の書籍や論考を読む機会はやはり多い。
 正直言えば、教育ジャーナリストとしていろいろな人が本を出したり記事を書いたりしているが、エビデンスに乏しかったり、流行に飛びついただけだったり、出羽守のできそこないだったり、ただ煽っているだけだったり、と、評価に値しないものがあまりにも多い。それだけ教育については「誰でも経験したことがあり、多くの人が関心を寄せているだけに、誰でもそれなりに語れるし、当たればマーケットも大きいから一気に有名になれる」ということなのだろうか。
 とくに首都圏の教育事情は異常であり、それをあたかも「日本の」教育として語ろうとする教育論は、めまいがするくらいタチが悪い。このあいだの「世界」の特集もひどかった、岩波も落ちたものだ。

 

 そんなゴミの山の中に、いい本を見つけると、自然と頬が緩む。
 元高校教員としての知識と経験をベースに、支援員や(いわゆるFラン大学の)大学非常勤講師を経て得られた本書の知見が、きわめて地に足の着いたまっとうなものとなっていることは、高い評価を受けてもよいだろう。

 本書の主張はきわめてシンプルである。進路格差が生まれる原因は、義務教育内容をきちんと理解しないまま、高校大学と進学する受験生やそれをさせる家族と、それを見て見ぬふりする学校にある、というものであるのだから、この問題を解決するための有効な手段として、まず義務教育学校をしっかりと支える政策が重要であり、そこに政策資源をきちんと投入するべきだ、というものである。それは大企業の関係者と有名大学の教授がつくった現行の学校教育のめざす学力観や授業を真っ向から批判するものであり、中小企業や最前線で踏みとどまろうとしている教員や支援員の声を政策形成の場にきちんと吸い上げるシステムの構築が欠かせない。

 まさに副題のとおりの内容であった。タイトルはこういうのがいい。

 

(こ)