香川めい・児玉英靖・相澤真一『<高卒当然社会>の戦後史』(新曜社)

先日、某教育系雑誌の編集委員さんからメールが届き、少子化時代の高校改革や私立高校授業料無償化政策のことで特集記事を出すから、戦後の高校教育拡大に焦点を当てて原稿を書いて欲しい、という依頼がありまして、勉強だと思ってお引き受けしました。

それがなかなか難しい。1948年の新制高等学校制度の発足から2023年までの75年間を、図表も入れて6000字でまとめるというのは至難の業でして、しかも他の執筆者の領空侵犯をしないようにしつつ、しかも編集委員さんの問題提起が実は私の知っている事実とズレているのでそこをやんわりと指摘するものにしておきたいし・・・。

というわけで、結局、この本のケーススタディをのぞいた序章・1章・2章・終章をざっくりと要約し、この本が出されて以降のこの10年の動向や、無償化政策についての考察を新たに付け加えて、出稿した次第。

本書の出発点は3つあって、ひとつは、過去にエリート資格であった高卒学歴がいつから大衆化したのかという関心、ふたつめは、飲み会などで地元の高校の制度の話をすると全国でバラバラなのはなぜかという疑問、そして3つめは長くなるが、教育学の世界で私立高校についてほとんど研究対象となっておらず、公立高校改革を邪魔する存在して悪者扱いすらされることが多い私立高校が、実は日本の高校教育拡大や多様性の確保にきわめて大切な役割を果たしたのだという筆者の自負。これらを、統計データ、行政文書、議会議事録、各校の周年誌などをベースに、全国のケーススタディによって解明していきます。終章で示したこれから高校で起きるだろうと思われた、公立高校改革によって行き場を失う生徒が出てくるおそれ、私立高校の閉校や生き残りをかけた改革の進展とそれにともなう私立高校の二極化、授業料無償化政策の展開については、ほぼ想定通り進んできています。

出版から9年。本棚から引っ張ってきて久しぶりにじっくりと読み返してみましたが、10年前の問題提起が古さを感じさせないのはなぜか、そのところにも何か日本の学校教育の抱えた問題があるような気がします。

(こ)