『正訳 紫式部日記』(中野幸一訳・勉誠出版)

年末年始はこれを読んで過ごした。中野幸一訳『正訳 紫式部日記』。

2024年の大河ドラマ「光る君へ」が紫式部ということもあるけれど、直接の契機となったのは、コミック『神作家・紫式部のありえない日々』(D・キッサン著)。紫式部を主人公にした作品であり、基本的にはコメディなのだが、史実をきっちり踏まえたりしておもしろかった。

そこで「紫式部日記」を読むことに。まずはいつもの「ビギナーズ・クラシックス 日本の古典」シリーズから山本淳子編『紫式部日記』(角川ソフィア文庫)で頭作りをする。毎度毎度お世話になっています。

山本淳子編『紫式部日記』(角川ソフィア文庫

そしていよいよ『正訳 紫式部日記』へ。日記の本文(原文)と並べた本文対照方式のため、気になったところはすぐ原文を見ることができて便利である。

『正訳 紫式部日記』(中野幸一訳・勉誠出版

紫式部日記」は、不思議な構成を取る作品である。まず中宮彰子出産(寛弘5年)前後の記録が長々と続き、その後で「ことのついでに」に始まる手紙文体部分が挟まり、それから2、3の断片的エピソードが続き、最後に少し先(寛弘7年)の記録で終わる。このうち手紙文体部分が挿入された経緯については議論があるらしい。

さて、この「紫式部日記」。単に華やかな宮中生活の記録かと思いきや、読んでみると紫式部の内省や煩悶がしばしばつづられることに驚かされる。

たとえば冒頭。「秋のけはひ入り立つままに、土御門殿のありさま、いはむかたなくをかし。」などとして、藤原道長の豪邸(土御門殿)の風情ある描写から入りつつも、ほどなく「憂き世の慰めには」とか「現し心をばひきたがへ、たとしへなくよろづ忘らるるも、かつはあやし。」などとして、紫式部自身が悩みや苦痛を抱いていることを示唆する。

1000年も前の日記であるが、思い悩む姿は現代人とそう変わらない。今日まで読み継がれている所以であろう。



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