山本文緒『無人島のふたり 120日以上生きなくちゃ日記』(新潮社)

余命と向き合いながらの文学、というのは、いろいろとある。

2021年4月、山本文緒さんが膵臓ガンの宣告を受ける。すでにステージ4、もはや治療法はない。抗がん剤の激しい副作用とその延命効果を考えた末に、彼女は緩和ケアを選択する。

日記は5月から始まる。本人が「120日後に死ぬフミオ」と自虐的にネタにしているが、ほんとうにこのタイトルでもよかったんじゃないのかなというくらい、調子のいい日とどうしようもなくしんどい日を繰り返しながら、命の火が消えるまでの夜と朝をカウントダウンしながら、その瞬間を文字にしていく。

次第に彼女は動けなくなる。書けなくなる。オリンピックがあった。文学賞を受賞した。120日を過ぎた。ぼんやりと、次は180日かと考えてみる。腹水が溜まり始める。新刊が出た、なかなか好評。思考が少しずつまとまらなくなっていく。

10月4日。「明日書けましたら、明日。」

10月13日(178日目)、永眠。

(こ)