鈴木忠平『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』(文藝春秋)

 監督・落合博満についての評価が分かれることは、少しプロ野球に興味があれば誰でも知っている話だろう。8年間で4位以下に1度も落ちたことがなく、リーグ優勝4回、日本シリーズ出場5回、日本一1回。「名将」以外の表現のしようがない。
 それでもなぜ落合監督への評価が分かれるのか。筆者はその理由を「嫌われた監督」という言葉で説明する。

 本書は彼が監督に就いていた2004年から2011年間での8年間を、彼と深く関わり大きな影響を受けた12人の選手・コーチを描くことを通して、落合博満というひとりの人間を等身大に描き出そうとする。
 そこにあるのは、真摯に野球に「だけ」向き合い、人生のすべてを野球に、そして野球に携わる人たちの成長と幸せを願い続ける、野球を愛し野球に愛された、ひとりの男の姿である。

 彼が闘い続けたのは、プロ野球界、あるいは日本のスポーツ界にまん延する、馴れ合いと不合理と不条理であり、それは日本社会の一面でもある。
 そんな落合の監督就任は、周囲からは歓迎されなかった。そこで会社は、組織の中でやる気を失っていた「末席のスポーツ新聞記者」に落合番を押し付ける。そして記者は、落合と触れ合うことで仕事の意味と面白さを知り、ライターとして独り立ちしていく。
 これが、本書に流れるもうひとつの物語である。

 たしかに彼が退任した後、中日ドラゴンズは長い低迷の時代を迎えた。ただし落合はGMとして5年間、球団のフロントで指揮を執っている。彼への評価はこの5年間も見なければならないだろう。また、落合とまったく同じことを、実は新庄ビッグボスが就任早々に選手たちに(まったく違う言い方で)伝えている。もしも新庄率いるファイターズが躍進すれば、落合はやはり正しかったということになろう。

(こ)