柚木麻子『ナイルパーチの女子会』(文春文庫)

ナイルパーチって、こんな魚。(Wikipediaより)
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 アフリカに住む大型の淡水魚で、大きいものは全長2m、体重200kgにもなる。肉質は淡泊な白身で食用として需要が高く、ヨーロッパや日本の食卓にも上っているそうだ。放流された川や湖では、凶暴な性格ゆえに在来種を食い尽くし、生態系に深刻な影響を及ぼしているらしい。日本ではかつては白スズキと呼ばれていたのだとか。
 ナイルパーチも、人間の都合で放流されなければ、危険な外来種呼ばわりされることなく、自分の居るべき場所で幸せに暮らしていたのに・・・。

 本作品の主人公は、このナイルパーチタンザニアから輸入するプロジェクトを任された栄利子。彼女には同性の友達がいない。その理由はすぐに明らかになる。
 栄利子のストーキング被害に遭った翔子も、かつて同じ被害に遭った圭子も、栄利子の対極にいるはずの真織も、すべての登場人物が痛々しい。登場する男性たちも(栄利子の父も、翔子の夫も父も、栄利子の同僚で真織の婚約者である杉下も)、それぞれに虚勢を張りながら必死で息をしている。

 「あんたが嫌いっていうより、むしろ、見てると自分の恥部がえぐられるみたいで、みんな、居たたまれないんだよ。」という真織の台詞がある。(32章)

 これだ。
 自分もまた、今、恥部をえぐられながら、給湯室での彼女たちの戦いに参加している。栄利子は自分であり、翔子も真織もまた、承認と共感と安らぎをもとめて必死にもがく、自分の姿なのだ。

 前に読んだ『BUTTER』の評価は大きく分かれるらしく、直木賞選考委員のあいだでは酷評だったという。それならば、と手に取ったのが本書だった。こちらは高校生直木賞に選ばれているので、きっとそれなりにストレートな作品なんだろう、と勝手に推察していたのだが・・・違った。高校生のみなさん、ごめんなさい、なめてました。
 『BUTTER』が首都圏連続不審死事件の木島早苗をモデルにしているならば、本作は東電OL殺害事件が下敷きとなっている。栄利子は殺されはしないが、心を病む。
 大団円は訪れない。微妙な後味が残るのだが、それでもなぜか心を鷲づかみにして離さない魔力がある。これは作品の力なのか、麻薬的な何かなのか?

 本作品は今月末から、テレビ東京が氷川あさみ主演でドラマ化されるらしい。どういう表現をしてくるのだろう。

 最後に、BUTTERといい本作品といい、もしかするとこの読後の胃もたれ感の原因は、情報量の多さによるものかもしれない。彼女が、足し算ではなく、引き算で書くようになったとき、彼女の作品は異次元に突入するのかな、しらんけど。

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半藤一利先生のご冥福をお祈りします。

ナイルパーチの女子会 (文春文庫)

ナイルパーチの女子会 (文春文庫)

 

(こ)