ヘッセ『シッダールタ』(高橋健二訳・新潮文庫)

ブルボン小林『あの人が好きって言うから…有名人の愛読書50冊読んでみた』(中央公論新社)が面白い。有名人(主として芸能人)の愛読書を読んで紹介するという本なのだけれど,これが書評としても,また芸能人評としても読んでいて楽しい(なぜか滝クリの項だけやたらと辛辣。…何かあったのか?)。

この中で,中谷美紀の愛読書として取り上げられていたのがこちら。ヘッセ『シッダールタ』。宇多田ヒカル高橋一生のお薦めとしても触れられていた作品である。こういう機会でもないとなかなか読めないので,読んでみた。

バラモンの子,シッダールタ(釈迦と同じ名前だが別人)。父の意に反し,苦行の旅に出るが・・・。

これは小説なのか? それとも「詩」なのか? はたまたヘッセの長い独白なのか? 観念的な言葉が長々と続くので,かなりとまどう。

物語は大きく3つに分けられる。名づけるとしたら,「苦行」の時代と,「放蕩」の時代と,「川の流れ」の時代となろうか。それぞれの時代に,主人公・シッダールタの脇にはカギとなる人物がいる。苦行の時代には友人・ゴーヴィンダ。放蕩の時代には愛人・カマーラ。そして,川の流れの時代には,恩人・ヴァズデーヴァ。それぞれの人物との関係の中で,シッダールタは自己を見つめ続ける。

悩める主人公なのだけれど,それでいてどことなくスーパーヒーローっぽくもある。苦行に入ってもあっさりと適応する。大富豪に頼りにされ,自らも億万の富を築く。絶世の美女の寵愛も受ける。そしてすべてを投げ出した後,最後には「愛」を語る・・・。

実力主義の世界である芸能界。そこを生きる人々に広く支持される本だというのも,分かる気がする。



(ひ)