西條奈加『心淋し川』(集英社)

直木賞候補に挙げられたということで,読んでみることに。西條奈加『心(うら)淋し川』。

江戸の片隅,千駄木の一角にある「心町(うらまち)」。淀んだ川のそばにある古びた長屋を舞台にした,6作の短編からなる連作短編集である。

表題作でもある第1話「心淋し川」から第3話「はじめましょ」までは人情話。人生,そう悪いことばかりでもないよね,などと思いながら読む。

第4話「冬虫夏草」は変化球。ぞわっとした読後感が残る。

そして第5話「明けぬ里」を経て,物語はいよいよ最終話「灰の男」へ。これまで度々登場してきた差配の男・茂十の,過去,そして現在の話である。

「忘れたくとも,忘れ得ぬ思いが,人にはある。」(192頁)

茂十の胸に去来したのは,寂寥か,それとも・・・。

どれもこれも,読んで良かったと思える作品。1話1話をじっくり味わうように読ませていただきました。

心淋し川

心淋し川


(ひ)