あけましておめでとうございます。
大先生、本年もどうぞよろしくお願いいたします。
=
首都圏連続不審死事件の被告人・梶井真奈子が雑誌記者の町田里佳に出した条件は、マーガリンを捨て、本物のバターを食べることだった。熱ごはんにたっぷりと乗せたバターが溶けて交じり合ってゆく。
それは、仕事や人間関係でカラカラに乾いている心と体に、カジマナの世間の視線など気にせず歯に衣着せない生き方が染みこんでいくように。こうして、取材として里佳がカジマナに近づくうちに、少しずつ少しずつ、里佳の心の中にカジマナが入り込んでいく。
前半、緊張感が張り詰めた文体がときどき不協和音を奏でる。そうした中で、バター醤油ごはんをはじめとする料理がストーリーを進めていく。カジマナに近づいた男だけではなく、親友の伶子も、里佳自身も、料理教室の生徒たちも、カジマナに関わる人たちは次々と、ちびくろさんぼのバターになった虎たちのように溶けていく。
彼女たちは、それぞれに回復していく。それを支えたのもまた、バターだった。あたたかくとろけるような文体の中で、里佳はふたたび歩みを始めるのである。
なお、この本は、2018年の「第1回全国中学生ビブリオバトル決勝大会」で優勝した中2の女の子が紹介していたものだ。彼女は、ひたすらバター醤油ごはんのおいしさを絶賛しながら、女性らしさとは何か、男性が求める女性像とは何か、に斬り込んでいた。なるほど、そういうふうに読んだのか。おじさんが読むと、また違うんだな。
2017年上半期直木賞候補作。
山本一力の解説が、またよい。
(こ)