古典ってすごいな。そう思いながらいろいろ調べているうちに,行き着いたのがこの本。池澤夏樹=個人編集 日本文学全集03『竹取物語・伊勢物語・堤中納言物語・土左日記・更級日記』。
何よりもまず,訳者が豪華。「竹取物語」を森見登美彦が,「伊勢物語」を川上弘美が,「堤中納言物語」を中島京子が,「土左日記」(土佐日記)を堀江敏幸が,「更級日記」を江國香織が現代語に訳している。・・・これ,バラバラにして文庫化したとしても結構売れたりするんじゃないの,などと思ったりする。
今回唯一,僕がこれまでに原文+現代語訳で読み通したことのある話。改めて読んだが,これが1000年も前に成立した物語であるなどとは信じられないくらい,よくできた物語である。
5人の求婚者はいずれも個性的で,キャラが立っている。また帝のラスボス感も半端ない。これらを袖にするかぐや姫の造形がまた,すばらしい。
森見登美彦による「訳者あとがき」が秀逸。たった3ページほどなのだけれど,十分に楽しめました。
通して読んだのは初めてである。恋愛話ばっかりかと思っていたが,必ずしもそうではなく,友情の話,失意の東下りの話,そして老境の話なども盛り込まれていた。とはいえやはり中心となるのは,恋愛話。伊勢斎宮との密通を描いた段(第69段)はやはり読み応えがあった。
物語の最後(第125段)で,もう自分は死ぬだろうと思った「男」は,以下の歌を詠む。
「つひにゆく道とはかねて聞きしかど昨日今日とは思はざりしを」
・・・心を打つ。
短編物語集。というか,中島京子の軽快な訳もあって,ショートショートという方が良いのかもしれない。「虫愛づる姫君」って,話の後半は失われているのだな。もったいない。
○土左日記(堀江敏幸訳)
本書随一のチャレンジングな訳。まず,なぜこのような日記を書くことにしたのかという「貫之による緒言」が冒頭に置かれた上(もちろんそのようなものは実在せず,訳者の創作である),本文が始まるのだが・・・。
ほぼ全て,原文どおり,ひらがな(女文字)で書かれている!
ごくわずかながら漢字も用いられているが,それは,紀貫之自身が漢字を用いた箇所に限られているる。さらに,膨大な注釈が,これもまた,紀貫之自身が注釈したというていで,本文中に埋め込まれているのである。
なんとまあ,チャレンジングな訳であるか。
(ひ)