三浦しをん『星間商事株式会社社史編纂室』(ちくま文庫)

 内部告発したらパワハラを受けて資料室に左遷された町職員さんのニュースを見ていると、コメント欄にこの本のことが書いてあったので、気になって購入。

 社史編纂室には、課長♂、先輩♂、後輩♀、そして幸代の4人(正確には誰もみたことのない部長♂を入れて5人)。会社設立60周年の記念誌を編纂する部署である(60周年には間に合わなかったけれど)。
 実は幸代にはもうひとつの顔がある。同人誌でBL小説を書いているオタク腐女子である。その幸代の正体が課長にバレてしまい、課長はどこまで本気かわからないまま同人誌の発行を決定し、謎の小説を書き始めた。
 一方、社史の方は、高度成長期のことを調べているところでさまざまな妨害に遭う。そこに何があったのか・・・?

 とまぁ、池井戸潤のような企業内部の大逆転劇を軸に、ちょっとしたミステリーをふりかけ、同人誌とオタクの世界を三浦しをんが活き活きと描き出してもうひとつのストーリーを走らせている。社史という都合よく切り出された「正史」に対して、実は「野史」こそがほんとうの人々の営みを記録している、ということか。

 『舟を編む』の辞書といい、この同人誌といい、言葉を紡ぎ出すことに対する作家の愛情と敬意があふれる作品であった。 

星間商事株式会社社史編纂室 (ちくま文庫)
 

 (こ)