紀貫之『土佐日記』(西山秀人編・角川ソフィア文庫)

土佐から京までの船旅を描いた「土佐日記」。以前,池澤夏樹個人編集の日本文学全集で読んだ(堀江敏幸訳)。ひらがなばかりのチャレンジングな訳文で,まあそれはそれで良かったのだけれど,一度,きっちり読みたいなあとも思っていた。

そこで今回,角川ソフィア文庫の「ビギナーズ・クラシックス 日本の古典」シリーズで読んでみることに。土佐日記の全文につき,原文と訳文を並べ,解説を施し,また多数のコラムを設けた本である。

冒頭からダジャレが連発。軽口が多く,愚痴なんかも出てくる。古典だからといって高尚というわけではなく,むしろ軽妙な語り口である。

「女もしてみむとてするなり」として女性を装いつつも実は歌人紀貫之が書いているというのは,当時の人たちにとっても作中に出てくる和歌などから明らかだったようで,むしろ解説にもあるとおり「今風にいえばコスプレに相当する手法」だったのだろう。しかも文中には紀貫之自身を投影した男性が出てくるのだが,これがまた,和歌に疎い偏屈じいさんとして描かれていて,面白い。

最後は無事に京に到着。良かった,良かった。


(ひ)