後深草院二条『とはずがたり』(佐々木和歌子訳,光文社古典新訳文庫)

お手軽な日記文学かと思って買ってみたところ,想像の遥か上を行くハードな内容におののいてしまい,そのままになっていた本。後深草院二条とはずがたり』。

時は鎌倉時代後深草院後深草上皇)の女房を務めていた「二条」の,波乱万丈の自叙伝である。

大納言・源雅忠の娘,二条。美人で聡明。4歳の頃から後深草院にお仕えし,姫君のように大切に育てられていたが,14歳になったところで後深草院から体を求められる。とまどいつつも,二条は後深草院の寵愛を受けていくが・・・。

次々と,読み手の想像を超えた出来事が続く。二条には前から好きな男(西園寺實兼)がおり,折しも後深草院の子を妊娠中,この男に抱かれる。出産後も関係は続き,後にはこの男との間の子も産む。また,後深草院の弟の法親王(僧侶!)からも熱烈な求愛を受け,祈祷の際に無理やり抱かれた上,以後も愛憎入り混じった関係が続き,果ては法親王の子を出産・・・と思ったところで法親王が病で死去。その時,二条のお腹には,法親王との2人目の子が・・・。

後深草院の方も,離れて暮らす自分の妹を抱きたくなって,その仲立ちをなぜか二条に頼んだり(しかも抱いた後,「大した女じゃなかったよ」みたいな感想まで伝えている),配下のジイサンに二条を「賞品」としてあてがったり(おかげで二条は好きでもないジイサンに抱かれ,心が折れかける)などとまあ,好き放題である。

やがて二条は御所を放逐され,出家。西行にあこがれていたこともあり,32歳の時には東国を旅し,45歳の時には西国を旅する。もっとも,二条の心の中には,常に後深草院がいた。やがて後深草院は病にたおれ,そして崩御する。二条は葬送の車を裸足で追いかけ,そして荼毘に付された煙を泣きながら眺める・・・。

二条の人生,それは,現代の価値観からするとおよそ理解の域を超えている。しかし,そのような人生を,二条はとまどい,悲しみ,時には腹を立てながら,しっかりと生きていた。瀬戸内晴美杉本苑子はこれを題材に小説を書き,いがらしゆみこは漫画化している。さほどに二条の生き方というのは,現代の我々の心を揺さぶるものである。

最後,二条は自問する。自分はなぜ,問われもしないのに,身の上を書き綴っているのだろう。そしてこう答える。
「自分の生きてきた道を,ひとり心の中で反すうするだけでは物足りないから。」

とはずがたり』,衝撃的でありつつも,名作である。

とはずがたり (光文社古典新訳文庫)

とはずがたり (光文社古典新訳文庫)


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