幸田文『流れる』(新潮文庫)

 震災関連の本を読んでいるとき、ふと、OBの国語の先生が生徒に幸田文を紹介していたことを思い出した。たしか『崩れる』だったかな・・・。買おうとしたら、そんな本はなく、『流れる』と『崩れ』が検索された。苦笑しながら、せっかくなので、どっちも手に入れた。

 『流れる』の舞台はとある花街。傾きかけた置屋の住み込み女中となった梨花の目から見た芸妓たちの生活が描かれる。その観察の眼差しは、ときには芸者たちの人間関係に向けられ、芸者ひとりひとりの人生に向けられ、あるときには老犬に向けられ、またあるときには魚屋や酒屋との他愛ないやりとりに向けられる。「しろとさん」である梨花に向けられる花柳界の人々の視線は、梨花を通して外の世界にいる読者へと伝えられ、読者は梨花を通して、箱庭のような花街の暮らしをのぞき込む。

 ふつうならそこで「。」を打つと思わせておいてさらに文章は続いたり、かと思うと短い文章が立て続けにやってきて、その次には、2ページにわたる長い長い段落の中に、これでもかといわんばかりのオノマトペが盛り込まれたり、ペンを使って読み手を自由自在に振り回す幸田文のタクト捌きには、ただただ参りました。この本は音楽だな。

流れる (新潮文庫)

流れる (新潮文庫)

  • 作者:幸田 文
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1957/12/27
  • メディア: 文庫
 

 (こ)