前野ウルド浩太郎『バッタを倒すぜ アフリカで』(光文社新書)

 タイトルからも表紙の写真からもわかるように、2018年新書大賞を受賞した『バッタを倒しにアフリカへ』(2017)の続編である。アフリカの魅力、バッタの不思議、そして任期付き研究者の悲哀を1冊に盛り込んだ、痛快作の続編であるわけだから、期待値のハードルは高すぎるほど高い。そこに600ページの自立可能なボリュームでぶっこんで来て、しかも最初から最後まで図版はカラー印刷。それが1500円だと、正気か、光文社?

 

 前作では、まだ論文執筆途中であったため、公表できなかったバッタ(サバクトビバッタ)の生態とりわけ繁殖行動についての部分が、全面的に解禁となったことで、前作から引き継いだエッセンスのうちで、バッタ研究の最前線の紹介という部分が大幅にパワーアップしている。さらに前作で書ききれなかった、西アフリカ(モーリタリア、モロッコ)のみならずフランスやアメリカ、それに日本での生活についてのエッセイも大幅に加筆増補されている。めちゃくちゃディープなバッタの生殖器官の話をしているかと思えば、同僚の家族のほのぼのネタに切り替わり、おいしそうなヤギの料理が写真付きで現れる。それらをすべて吞み込む彼のバイタリティと筆力には、脱帽である。

 

 ファーブルにあこがれて昆虫学の世界に足を踏み入れたものの、いばらの道をひたすらかき分けて歩き続けてきた彼の苦労をずっと追いかけてきた読者は、最終章で涙しないわけにはいかない。神はいる、ちゃんと見ている。あとは、本人のたっての希望であるように、自分の婚活を犠牲にしてバッタの婚活を世界で初めて論文としてまとめ上げ、聖書の時代から人類を苦しめ続けてきたバッタを防除するヒントを見つけたウルド氏の婚活を、神が成し遂げるだけである。
 人とともに喜び、人と幸せを分かち合うことが自然にできる彼である、神はきっといる、ちゃんと見ている。

 

Kindle版では、バッタ画像抜きバージョンもあるらしい。気持ちはわかる。

(こ)