塚原直樹『カラスをだます』(NHK新書)

 カラスは賢いという。目がよくておしゃれで子煩悩で・・・などと、身近な鳥だけにそれなりに聞きかじった知識もある。
 著者は大学でカラス研究に出会い、現在は起業して、カラスの鳴き声や模型などを使ってカラスとコミュニケーションすることによって、害を除こうとするプロジェクトの実現に向けて、日々研究と実験にいそしんでいる。
 それだけではなくて、カラスの生態や、カラス料理の紹介なんかもあって、とにかくカラスっておもしろい。

・・・と、内容はとても興味深いのだが、サイエンスエッセイとしては『生物と無生物のあいだ』『バッタを倒しにアフリカへ』の方が格段に上である。おそらく編集者氏が勧めるままに、わかりやすいく親しみやすい文章を書こうとしてこねくり回した結果、なんともいえない中途半端なエッセイができあがった。残念だ。
 もうひとつ。青学大教授となった福岡先生の時代にはテニュアへの道が開けていたのだが、前野ウルド先生もそうだし、塚原先生も、安定したアカデミックポストになかなか就くことができない。いちばん脂の乗った若手研究者が「おもしろい研究」をしたくてもできないこの国の未来は、暗い。

カラスをだます (NHK出版新書 646)

カラスをだます (NHK出版新書 646)

  • 作者:塚原 直樹
  • 発売日: 2021/02/10
  • メディア: 新書
 

 (こ)