岡田麿里『アリスとテレスのまぼろし工場』(角川文庫)

岡田麿里が初めて監督を務めた映画「さよならの朝に約束の花をかざろう」からはや5年。今年9月には監督2作目となる映画「アリスとテレスのまぼろし工場」の公開を控えている。その小説版(監督自ら執筆)が発表されたので、読んでみた。岡田麿里『アリスとテレスのまぼろし工場』。

「時」が止まった町で暮らす中学生・正宗。同級生の少女・睦美とともに製鉄所に侵入したところ、そこには――。

小説にしろ映画にしろ、創作というのはリアルとフィクションのバランスの取り方が難しいと思う。リアルすぎると面白くなく、フィクションすぎると興覚めする。

本作の舞台は、時が止まった町。リアルの世界ではあり得ないのだが、それを説得力をもって観客に見せていくところに本作のすごみがある。

映像ありきのストーリーなので、ところどころ、映画でどう表現されるのかを思い描きながら最後まで読んだ。設定がかなり特殊であり、万人受けする話とまではいえないかもしれないが、刺さる人には刺さる良作である。

岡田麿里『アリスとテレスのまぼろし工場』(角川文庫)


(ひ)