柞刈湯葉『まず牛を球とします』(河出書房新社)

 SFというのは空想科学小説なんだから、科学的であることが大前提である。
 ガチの生物学研究者が書いた短編小説集からは、サイエンスの香りがプンプンと漂ってくる。
 ただしその香りは、何やら独特の風合いがして、どうも鼻につく。慣れればそれが病みつきになるのだけれど、それまで少しの我慢比べが必要かもしれない。

 表題ともなっている1本目は、未来のインドネシアの培養肉工場で働く元日本人の話。そこから、田中という名字の話になって、虚数を食べるという話になって、NASAの職員の話に着想を得た(石油王ならぬ)石油玉の話になって、AIが進化した未来の仕事の話になって、さらにそこに神がからんできて、宇宙人のようなものとの共同生活の話になって、小天体を回収しながらタマネギの話をして、月で暮らし始めた人間の話になって、大正浪漫のリケジョの話になって、安倍公房の箱男が令和に復活して、政治に忖度しながら暦をつくる学者たちの話になって、広島のドームに突き刺さった不発弾「リトルボーイ」を回収する話になって、最後はゲノムサイエンティストのモノローグで終わる。

 テーマも長さも文体もバラバラなんだけれど、なんだかなんだと最後は収斂してくるのも、また科学的。個人的には「沈黙のリトルボーイ」が好きだが、次に読んだら違うのをいいと思うだろう。

(こ)