広告でよく見かけるので、どんなのかなと思って読んでみた。井上真偽『アリアドネの声』。
ドローン関係のベンチャー企業に務めるハルオ。仕事先で地震に遭遇し、そこで「見えない・聞こえない・話せない」女性が地下に閉じ込められていることを知る。ハルオは災害救助用ドローンを使って、女性をシェルターに誘導しようとするが――。
子どもの頃の出来事に後悔の念を抱き続けている主人公。テンポもよく、またミステリ要素もあって、結構面白いエンタメ小説であった。
ところで本書には、普段あまり本を読まないライト層に向けてのものなのか、様々な配慮がされている。
少し大きめの文字、平易な文章、主人公に与えられた明確な目標。脇役については、消防士の「火野」さん、介助者(通訳)の「伝田」さんなど、連想しやすい命名になっているのも工夫の一つであろう。表紙も、よくある抽象的なものではなく、「ドローンを使って目の見えない女性をシェルターに誘導する」という、完全に内容とリンクしたイラストになっている。
裏を返せば、出版業界の危機感の現れなのかもしれないけれど、こういう工夫、僕は大歓迎です。
(ひ)