アルテイシア『59番目のプロポーズ キャリアとオタクの恋』(幻冬舎)

「……アムロか?」――それが出会い(実話)。

2004年11月、「mixi」のブログに日記の連載が始まった。モテ系キャリアウーマンとモテないオタクの恋物語である。話題となったこの恋物語は、翌年アッという間に書籍化され、映画化やドラマ化もされた。藤原紀香陣内智則を結び付けたのが本書である。

(最初はそういう本だと思ってましたよ、はい。)

さて、このアルテイシアさんが、先日の共通テストを前に「痴漢チャンスデー」への対策を警察や鉄道会社に要請し、痴漢撲滅キャンペーンを展開していたことを、ご存じだろうか。
熟女(本人曰く「JJ」)となった彼女は今、女性のみならず理不尽に自由を奪われている者のために声を上げて闘い続けている。性暴力を許さないための「行動する傍観者」キャンペーンで動画制作に協力したのも彼女だ。藤原紀香がやりそうなことではない。

バリキャリで酒とセックスにおぼれていた彼女が、どうしてこうなったのか。それは「59番」(←彼女に告白したのが59番目くらいだったから)との出会いによって、ほんとうに必要な「伴侶」を手に入れたから。それは59番にとっても同じこと。

アルテイシアさんも59番さんも、ふたりとも壮絶な子ども時代を経験し、阪神淡路大震災を経て、何度も生きることに絶望しながら、彼女は仕事と酒とセックスに、彼は格闘技と虫とマンガに、死なない理由を求めていた。そんなふたりがバーのカウンターで出会ったのは、運命だったのだろう。

これは、モテ系キャリアウーマンとモテないオタクの恋物語ではない。
牢獄に捕らわれた姫の魂をオタクのマッチョが体当たりで救い出す話。
珍獣と珍獣が遭遇した奇跡の話。割れ鍋に綴じ蓋。あるいは、孤独な2つの魂が共鳴するドラマである。

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(こ)