2018-01-01から1年間の記事一覧

湊かなえ『ブロードキャスト』(KADOKAWA)

へえ、放送部。西加奈子か、佐藤多佳子か、・・・え、湊かなえですか? 思えば10年前の『告白』は衝撃だった。そのイメージがずっと自分の中に付きまとっているので、表紙のデザインも含めてちょっと意外な感じがした。 舞台は高校放送部。ケガで陸上を断念…

中山元『アレント入門』(ちくま新書)/仲正昌樹『悪と全体主義―ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書)

ハンナ・アーレント。今ちょっとしたブームである。トランプ政権の誕生後,全米でその著作が再び売れ出した。日本でも昨年,『全体主義の起原』と『エルサレムのアイヒマン』の新版が出版された。このうち『全体主義の起原』はNHKの「100分de名著」で…

「ホーム」をめぐる7つのショートストーリー(ビッグイシュー日本版)

今号のビッグイシューは、15周年を記念して、「ホーム」をめぐる7編の短編集が巻頭特集になっていた。 曰く、“ホーム”には、家、家族、故郷、故国、住処、居場所、隠れ場所、収容施設、乗降場、発祥地、本場、本拠地、陣地……など無数ともいえる意味があり…

村田沙耶香『消滅世界』(河出文庫)

ディストピア小説か,それともユートピア小説か。村田沙耶香『消滅世界』。 2年前の芥川賞受賞作『コンビニ人間』は衝撃だった。何が普通で,何が普通ではないのかという感覚が,根元から揺さぶられた。その『コンビニ人間』よりも「遙かに力作」(佐藤優・…

西原理恵子『上京ものがたり』(小学館ビッグコミックス)

NHKーBS1に「最後の講義」という番組がある。今日が最後の一日だとしたら、あなたはどのようなメッセージを残しますか?、というもので、先週の放送では、りえぞう先生が東京女子大学で学生さんを相手に、女性の生きざまについて語っていた。真面目に…

須賀しのぶ『夏空白花』(ポプラ社)

夏。終戦。そして,高校野球。須賀しのぶ『夏空白花(なつぞら・はっか)』は,終戦直後,「全国中等野球大会」(後の高校野球)復活のために奔走する一記者の物語である。 話は昭和20年8月15日,玉音放送の場面から始まる。新聞記者の神住(かすみ)は…

倉田タカシ『うなぎばか』(早川書房)

暑い。こんな日には、うなぎでも食べて、元気出そうか。そんなわけで、鰻重を食べる代わりに、本屋で手にしたのが、うなぎばか。 舞台は、うなぎが絶滅した世界。 秘伝のうなぎのたれをめぐる三世代の話(うなぎばか)。密漁監視するうなぎ型ロボットと「さ…

パスカル『パンセ(抄)』(鹿島茂訳,飛鳥新社)/アウグスティヌス『告白 III』(山田晶訳,中公文庫)

これまでいろいろ思想・哲学の本をアドホックに読んできたけれど,ちょっと基礎的なところから整理したくなって,小寺聡編『もういちど読む山川倫理』(山川出版社)を購入して読んだ(夏休みだし。)。高校の教科書を大人向けにアレンジしたシリーズの一冊…

白井聡『国体論 菊と星条旗』(集英社新書)

今年上半期、たくさんの新書が刊行されたけれど、個人的に1位はこれだと思う。 『永続敗戦論』で一躍論壇に躍り出た白井聡氏が、近代前半(明治維新~敗戦)と近代後半(敗戦~現在)について「国体」の形成・安定・崩壊、という3つの時代区分を設定しなが…

ショーペンハウアー『幸福について』(鈴木芳子訳,光文社古典新訳文庫)

話題の映画『カメラを止めるな!』(上田慎一郎監督)見てきましたよ~。いや~,最高!!何を書いてもネタバレになりそうなので何も書けないけれど,もう最高!!この作品を生み出した全てのスタッフとキャストに感謝です。ありがとう!! (なお,画面酔い…

野澤千絵『老いる家 崩れる街』(講談社現代新書)

オリンピックのマラソン競技ためにサマータイムの導入を検討するとかいう、頭のクラクラするような話を聞いて、この本のことをふと思い出した。 続々と建設される新築マンションを見ながら、人は減るのに家建てて、どうなるんだろう、とつねづね思っていた。…

『ヨハネの黙示録』(小河陽訳,講談社学術文庫)

再び『日経おとなのOFF』8月号から。 名著特集の「宗教書」のコーナーで,『法華経』と並んで紹介されていたのが『聖書』である。『聖書』かあ・・・。読んだ部分と読んでいない部分とがあるなあ。いや,むしろ読んでいない部分の方が圧倒的に多いか。・…

遠藤周作『女の一生 2部 サチ子の場合』(新潮文庫)

幼馴染のサチ子と修平、そしてコルベ神父の3人の人生を交差させながら、少しずつ息苦しくおかしくなっていく時代の中で、しかしそんな時代だからこそ浮かび上がる人間愛が、静かに、熱く、円熟期の遠藤周作が筆遣いによって紡ぎだされていく。 コルベ神父は…

橋爪大三郎=植木雅俊『ほんとうの法華経』(ちくま新書)

『日経おとなのOFF』という雑誌があって,1,2年に一度くらい,名著特集をする。今月発売の8月号がその名著特集の号で,古今東西の様々な名著が紹介されている。この8月号を眺めながら,この本は読んだなあ,とか,まだ読んでないなあ,今度読もうか…

小山茂仁『私学の民主化 理論と実践』(私学ニュース社)

すみません、一般にはほとんど手に入らない変な本について書きます。 「おすすめ」ではないのですが、けっこう(いろんな意味で)自分として考えることが多かったもので・・・。 本書は1980年の刊行で、1970年代に著者が行った講演や著した論考をまとめたも…

H・G・ウェルズ『タイムマシン』(池央耿訳,光文社古典新訳文庫)

島本理生さん直木賞受賞おめでとうございます! 問題作だなんて言ってごめんなさい。テーマが重すぎるだなんて言ってごめんなさい。皆さんぜひ読もう! 読んで,主人公・真壁由紀の,そして被告人・聖山環菜(かんな)のつらさ,苦しさを共感しよう! 大丈夫…

新井紀子『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)

『宇喜多の楽土』おもしろかったです。直木賞は残念でしたね。 さて、今週はちょっとAIとシンギュラリティについて思うところがあって、何冊かまとめて読んでみた。 そうした中で、あらためて本書がよくまとまった本だということがわかったので、読み直し…

直木賞大予想!

いよいよ来週7月18日(水),第159回直木三十五賞が発表されます。どの作品が栄冠を勝ち取るか。誰が「直木賞作家」との肩書き(?)を勝ち取るか。今回はその大予想をしたいと思います。・・・なお,ノミネート作品のうち上田早夕里『破滅の王』と本…

森見登美彦『宵山万華鏡』(集英社文庫)

今日は宵山。 年に一度、夢か現か、京の街にワンダーランドが現れる夜・・・。 舞台は京都・洛中。7月16日夜、祇園祭宵山の雑踏に迷い込んでしまった小学生の姉妹の話。蟷螂山、南観音山、鯉山、駒形提灯、偽祇園祭と祇園祭司令部特別警務隊、金魚鉾、宵山様…

瀧羽麻子『ありえないほどうるさいオルゴール店』(幻冬舎)

たまには心安らぐ連作短編集を。ということで,瀧羽麻子『ありえないほどうるさいオルゴール店』。 運河のある北の町でひっそりと営業しているオルゴール店。その店主にはある「能力」があった。“お客様の心に流れる曲”を仕立ててくれるという・・・。 1作…

佐藤優・片山杜秀『平成史』(小学館)

2018年6月18日。揺れた。 震度5を体験したのは、1995年1月17日、2011年3月11日に次いで、3度目だ。 平成という時代がまもなく終わる。平成はいろんなものが揺れた時代だった。 このふたりが語る「平成」という時代は、昭和という知的…

ジョン・リード『世界を揺るがした10日間』(伊藤真訳,光文社古典新訳文庫)

「『岩波文庫の100冊の本』って知ってるか? 僕ら学生の頃は,東大・京大生はこれを70冊読め,って言われてたんや。君ら,読んでへんやろ。」4,5年前,ある会合で70歳近くの大先輩から言われた言葉である。帰宅してから調べてみると,昭和36年に…

門井慶喜『新選組の料理人』(光文社)

門井さんは、その人にいきますか、というところにスポットライトを当てる。 宮沢賢治の父上だったり、利根川東遷を指揮した伊奈忠次だったり、慶長小判をつくった後藤庄三郎だったり。 今回の主人公は、ひょんなことから新選組の専属シェフとなった菅沼鉢四…

島本理生『ファーストラヴ』(文藝春秋)

・上田早夕里『破滅の王』(双葉社)・木下昌輝『宇喜多の楽土』(文藝春秋)・窪美澄『じっと手を見る』(幻冬舎)・島本理生『ファーストラヴ』(文藝春秋)・本城雅人『傍流の記者』(新潮社)・湊かなえ『未来』(双葉社) 今週発表された直木賞候補作で…

麻耶雄嵩『友達以上探偵未満』(角川書店)

ここしばらく重たい本が続いたので,たまには肩肘の張らないミステリを,と思って読んだところ,意外に面白かった。麻耶雄嵩『友達以上探偵未満』。 事件が起こって,謎があって,それを「探偵」役が謎解きする,という王道の本格ミステリだが,本作品の「探…

是枝裕和『万引き家族』(配給:GAGA、ノベライズ:宝島社)

柴田治は、妻の信代、息子の翔太、母の初枝、妻の妹の亜紀の5人暮らし。足りない生活費を万引きで補って、なんとか暮らしている。凍えそうなある冬の夜のこと、親から虐待を受けてベランダでうずくまる少女を治と翔太は家に連れてくる。返しにいくのだが、「…

直木賞ノミネート作品・大予想!

さて,今年も上半期の直木賞の時期が近づいてまいりました。公式twitterによると,ノミネート作品は「6月中旬」に発表とのこと。今回は,上半期に発表された文芸作品(全部で数百冊くらいあるのか?)の中から,果たしてどんな作品がノミネートされるのか,…

吉川徹『日本の分断』(光文社新書)

東京で5歳児が虐待死させられた事件に、心が痛み続けた一日。 前著『学歴分断社会』では、日本社会の分断線を「大卒」と「非大卒」の間に引き、現代日本では両者がほぼ半分ずつ暮らしていて、前者の子どもは前者、後者の子どもは後者として、階層の再生産が…

柚月裕子『凶犬の眼』(角川書店)

あの衝撃の警察小説『孤狼の血』に,まさかの続編が出た。柚月裕子『凶犬の眼』。 平成2年の広島県内。田舎の駐在所に左遷された日岡秀一。カレンダーに×印をつけながら毎日を虚しく過ごしていたところに,ある男がやってくる。それは,殺人事件で指名手配…

半藤一利『歴史と戦争』(幻冬舎新書)

「半藤一利語録」が出た。本書は氏の膨大な著作の中から一段落ずつ取り出してまとめたものである。 『日本のいちばん長い日』に始まり、氏の幕末氏、近代史、昭和史を一貫する視点は、為政者の偽善、危機にあって浮かび上がる真の知性と勇気であり、そしてそ…