2018-01-01から1年間の記事一覧

木下昌輝『宇喜多の楽土』(文藝春秋)

デビュー作『宇喜多の捨て嫁』は強烈だった。戦国の梟雄・宇喜多直家とその娘・於葉(およう)を中心に,裏切りあり,策謀ありの世界が描かれた。まるでページから狂気とか腐臭とかが沸き立ってくるようであった。 あれから4年。今度は直家の嫡男・宇喜多秀…

酒井啓子『9.11後の現代史』(講談社現代新書)

5月15日という日が、犬養首相の命日であり、葵祭で御所のあたりが一時通行止めになる日であり、 うっすらと沖縄本土復帰の日であるというあたりまでは記憶にあったが、イスラエルが独立を宣言してパレスチナ難民が生まれた「ナクバ(大惨事)の日」だとは気…

窪 美澄『じっと手を見る』(幻冬舎)

デビュー作『ふがいない僕は空を見た』は強烈だった。過激な描写,リズミカルな文体。山本周五郎賞を取り,本の雑誌ベスト10の1位に選ばれ,本屋大賞も2位に入り,果ては映画化されてトロント国際映画祭に正式出品された。その結果,・・・2作目以降も…

鷺沢萠『ウェルカム・ホーム!』(新潮文庫)

大先生オススメの『そして、バトンは渡された』を読んで、ほっこりと余韻にひたりながらふらっと入った西院駅前のブックファーストにて、「Push! 1st.」と称してブックファーストのイチオシ本を紹介するコーナーを見つける。 『そして、バトンは渡された』の…

村山由佳『風は西から』(幻冬舎)

過労自死をテーマにした小説である。村山由佳『風は西から』。 大手居酒屋チェーンに就職した健介は,若くして繁忙店の店長を任されるが,そこで待ち受けていたのは,尋常ではない業務量と,心が折れるほどの叱責だった。彼女の千秋は,そんな健介を心配しつ…

角田光代『私はあなたの記憶のなかに』(小学館)

1996年から2008年までの間に発表された8本の短編をまとめたもの。 タイムカプセルに閉じ込められた「角田光代」を掘り出して味わう作品集。 個人的感想を述べれば、最初の「父とガムと彼女」がすごくよかったので、期待して読み進めたのですが・・・「記憶」…

木皿 泉『さざなみのよる』(河出書房新社)

脚本家の夫婦ユニット・木皿泉の5年ぶりにして2作目の小説である。『さざなみのよる』。 43歳の女性・小国ナスミと,彼女の周囲の人々とを描く連作短編集である。NHKのお正月ドラマ「富士ファミリー」のスピンオフ作品なのだが,見ていなくても読める…

吉本ばなな『キッチン』(福武文庫、角川文庫)

義父が亡くなった。長くはないとは言われていたものの前の日まで元気だったのに、容態が急変して、あっという間に心臓が停止した。 夜伽で義父とワインを傾けたりしながら(寝たけど)、ひととおり葬儀も済んで、家族でファミレスに繰り出した。 無性に肉が…

王谷 晶『完璧じゃない、あたしたち』(ポプラ社)

有名作家の作品ではない。ベストセラーでもない。超大作でも感動巨編でもない。それでも今回はこの本を紹介したい。王谷 晶『完璧じゃない、あたしたち』。 23編の短編からなる短編集である。共通するテーマはたった一つ。すべて“女と女が主人公”というこ…

瀬尾まいこ『そして,バトンは渡された』(文藝春秋)

久々にいい本を読んだ。瀬尾まいこ『そして,バトンは渡された』。「親子」の物語である。 高校生の優子は,血の繋がらない「父親」である「森宮さん」と二人で暮らしている。実母は小さい頃に亡くなり,実父も遠くへ行ってしまっている。「森宮さん」はちょ…

中澤渉『日本の公教育』(中公新書)

教育系新書紹介、もう1冊は、中澤渉『日本の公教育』。 中身については、学術書として出された『なぜ日本の公教育費は少ないのか』(サントリー学芸賞受賞)をベースに新書サイズに整理して書き直したもので、学校教育の外部性や階層研究などの教育社会学の…

『本屋大賞』ベストテンについて

今週,「2018年本屋大賞」のベストテンが発表されました。ノミネート作品発表から約3か月。長かったような,短かったような…。 ・第1位:辻村深月『かがみの孤城』 やりました。堂々の第1位です。圧勝でした。この本が一人でも多くの人に読まれますよ…

小針誠『アクティブラーニング 学校教育の理想と現実』(講談社現代新書)

本屋大賞、大先生の予想通り、『かがみの孤城』になりましたね! さすがです!! さて、教育社会学関係でなかなかよい新書が2冊立て続けに出ました。 ひとつめが、小針誠『アクティブラーニング』。このタイトルの書籍はたいてい、どうやったらアクティブラ…

『本屋大賞』大予想

来週10日,いよいよ本屋大賞発表。ということで,ベスト3くらいまでを,個人的な主観も混ぜ込んで予想したいと思います。(結局,ノミネート作品10作中,8作まで読んでいました。) ・第1位:辻村深月『かがみの孤城』 いやあもうこれは確実でしょう…

小川糸『キラキラ共和国』(幻冬舎)

小川糸『ツバキ文具店』は良かった。代書屋という(架空の)仕事。人の悩み,想いというものを「手紙」という形で前に進めるというストーリー。そして「母」と「娘」(本当は「祖母」と「孫」なんだけど)の葛藤。最後はきれいにまとまり,よい話だった。 ・…

丸山眞男『忠誠と反逆』(ちくま学芸文庫)

戦後70年、あるいは明治150年、まがいなりにも先人たちが築き上げてきた価値の体系と統治のシステムが、たった5年の間に音を立てて崩れてしまったような、めまいにも似た感覚に震えながら、国会中継を通して見る一部の官僚の姿は、ここは近代国家ではなく、…

加藤シゲアキ『チュベローズで待ってる』(扶桑社)

これはもはや,ジャニーズのアイドルが書いたタレント本ではない。プロの作家が描いた立派なエンターテインメント小説である。加藤シゲアキ『チュベローズで待ってる』。 上下巻からなる作品である。上巻の『AGE 22』では主人公は22歳。就職活動に失敗した…

安彦良和『イエス JESUS』(NHK出版)

20年ほど前だったか、春休みに、シリアからヨルダンを経て、イスラエルに向かったことがあった。ちょうどイスラム教の「犠牲祭」(神に試されたアブラハムが息子を捧げようとしたことを記念するお祭り)だったので、あちこちで羊を屠って盛り上がっているよ…

遠田潤子『オブリヴィオン』(光文社)

「本の雑誌が選ぶ2017年度ベスト10」堂々の第1位である。遠田潤子『オブリヴィオン』。 絶望と,後悔と,そこから這い上がろうとするほんの少しの希望の物語である。 冒頭から読ませる。刑務所から出所してきた主人公・森二(しんじ)。これを待ち構…

日本自立生活センター(JCIL)企画編集『障害者運動のバトンをつなぐ』生活書院

観てきました、「グレイテスト・ショーマン」! いや~~~~ よかったっっっ!! というか、ヒュー・ジャックマン。あなたこそが最高のショウマンですよ! ・・・すみません、読書日記にもかかわらず、あまりにいい映画を観たもので、興奮してしまいました。…

司馬遷『史記 1~8』(徳間文庫カレッジ)

ついに,ついに読破した。徳間版『史記』全8巻。 抄訳ではある。抄訳ではあるが,各巻500頁前後で全8巻というのはかなりのボリュームであるし,しかも主な出来事やそこそこ有名なエピソードはほぼ網羅している。何よりもまず,簡単な解説と現代語訳に加…

岡潔・小林秀雄『人間の建設』(新潮文庫)

畑違いのふたりによる対談というのは異種格闘技のようなものでもある。 この、戦後日本を代表する数学界と批評界の二人の碩学による対談は、昭和40年、新潮の企画で行われたらしい。 二人は自己主張に走らず、対話のための糸口をさぐり、互いにパスを出し続…

赤神諒『大友二階崩れ』(日本経済新聞出版社)

華々しいデビュー作です。赤神諒『大友二階崩れ』。 九州の戦国大名・大友氏内部のお家騒動「二階崩れの変」を題材に,家臣の吉弘左近鑑理(あきただ)とその弟・右近鑑広(あきひろ)を描いた歴史小説です。 これが,並の戦国小説とは違う。「義」を貫こう…

森見登美彦『新釈 走れメロス』(祥伝社文庫・角川文庫)

大先生のマキャベリに触発されて、塩野七生の『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』が無性によみたくなった(こ)です、こんにちは。今回は前回の続きで、現地で読むといいよねシリーズにしようかと。 京都を舞台にした小説はたくさんあるけれど、や…

和田竜『村上海賊の娘 1~4』(新潮文庫)

ごめんなさい。こんなに破天荒でハチャメチャで面白い戦国時代小説,今の今まで読んでいませんでした。和田竜『村上海賊の娘』です。 村上水軍の娘・景(きょう)を主人公に据え,大阪湾で実際に行われた海戦「木津川口での戦い」を描いた小説です。これが,…

有川浩『阪急電車』(幻冬舎)

うちのクラスの学級文庫に何冊か持って行こうと、自宅の本棚をごそごそまさぐっていたところ、ぽろりと頭の上に降ってきたのが、なつかしい『阪急電車』だった。 最初に買って読んだのは、どうやらもう10年も前のことになるらしい。 久しぶりに手にとって、…

マキャヴェリ『君主論』(森川辰文訳,光文社古典新訳文庫)

ちょっとした『君主論』ブームである。マキャヴェリブームといってもいいかもしれない。 ここ数か月の間に,相次いで新訳が刊行された。光文社古典新訳文庫版と,中公文庫版である。その少し前にはウェッジ版というのも出たらしい。今は,そういう時代なのか…

『100万分の1回のねこ』(講談社)

今日、2月22日は、猫の日らしい。 というわけで本棚から引っ張り出してみたのは、13人の作家さんが佐野洋子さんの名作『100万回生きたねこ』に捧げる、猫(あるいは100万)にまつわる十三人十三色のトリビュート短編集。 先頭の江國がきれいにセンター返しで…

ホッブズ『リヴァイアサン 2』(角田安正訳,光文社古典新訳文庫)

「第1部 人間について」の画期的な新訳から約3年。待望の続刊,ホッブズ『リヴァイアサン 2』(角田安正訳,光文社古典新訳文庫)がようやく刊行された。「第2部 国家について」の部分の新訳である。 「万人の万人に対する闘争状態」こそが人間の自然状…

片山杜秀『未完のファシズム―「持たざる国」日本の運命』(新潮選書)  

今週いちばんおもしろかったのが、この本。 佐藤優『ファシズムの正体』(インターナショナル新書)の中でたびたび引用されていたので、買ってみた。 まぁ、目からウロコとはこのことか。 「なぜあの戦争に突入したのか?」「なぜあんな無謀な精神主義がまか…