王谷 晶『完璧じゃない、あたしたち』(ポプラ社)

有名作家の作品ではない。ベストセラーでもない。超大作でも感動巨編でもない。それでも今回はこの本を紹介したい。王谷 晶『完璧じゃない、あたしたち』。

23編の短編からなる短編集である。共通するテーマはたった一つ。すべて“女と女が主人公”ということ。「女の人生を変えるのは男だなんて,誰が決めたのさ?」との宣伝文が全てを語る。

冒頭は女性の「第一人称」を巡る話(『小桜妙子をどう呼べばいい』)。ああ,こういうテイストの短編集か,と思って次の作品を見ると,テンポの良い北関東弁の会話の後に予想外の展開(『友人スワンプシング』)。こんなのもありか~と思ってその次の作品に入ると,これが昭和テイストただよう江戸川乱歩風のちょいホラー(『ばばあ日傘』)。もう,作風が一作一作ごとにどんどん異なってくる。

その後も,星新一風のSFあり,不条理小説あり,自伝的小説あり,戯曲あり・・・などと,次から次へと読者を飽きさせずに,様々なジャンルの短編が繰り広げられる。決して粒ぞろいというわけではなく,中には「?」と思わざるを得ない作品もあるし,少し荒削りなのも否めない。それでも,キラリと光る作品も少なくなく,なかなか面白い。

それにしても,女性は大変である。女性というだけで一部の男性からは見下され,セクハラされ,容姿で評価され,年齢で評価され・・・。それでも。それでもこの23編の主人公たちは,前を向いて歩んでいく。

最後の2作品(『東京の二十三時にアンナは』,『タイム・アフター・タイム』)はいずれも短いながらも結構読ませてくる。この2作品だけでも,読む価値は十分あるかもしれない。

完璧じゃない、あたしたち

完璧じゃない、あたしたち

(ひ)