ジョン・リード『世界を揺るがした10日間』(伊藤真訳,光文社古典新訳文庫)

「『岩波文庫の100冊の本』って知ってるか? 僕ら学生の頃は,東大・京大生はこれを70冊読め,って言われてたんや。君ら,読んでへんやろ。」
4,5年前,ある会合で70歳近くの大先輩から言われた言葉である。帰宅してから調べてみると,昭和36年に丸山眞男ら当時の知識人が選んだ100冊の岩波文庫とのこと。
タイトルをざっと眺めてみると,なじみのありそうなものばかりだったので,結構読んでいるのではないかと思って数えてみたら・・・これが全然読んでいない。
さすがにまずいと思って読み始めた。

とはいえ,50年以上も前の岩波文庫の100冊である。クラシカルなものが多い上,今では版元品切れになっているのも少なくなく,また文庫版で5巻もの,10巻ものといった超大作もあったりする。まあ,とりあえずチャレンジしてみようと思い,他の文庫で新訳が出ているものはそちらを読んだりもしながら,少しずつ数をこなしていった。さすがに60冊を超え,65冊を超えたあたりから,一冊一冊が苦しくなったりしたのだけれど(手頃な作品はおおかた読み終えていたので,あとはそれなりに分量のあるものか,古本屋でしか入手できないものばかりになってきた),せっかくここまで来たのなら・・・と意地になって読み進めた。

それが,ようやく70冊に達した。記念すべき70冊目は,ジョン・リード『世界を揺るがした10日間』。岩波文庫版ではなく,最近出た光文社古典新訳文庫版。

1917年11月,ロシア革命の10日間を描いたルポルタージュである。当時の熱意と,熱気と,情熱とが伝わってくる。もっとも,僕らはその後の歴史も知っているので,やや複雑な思いもあるのだけれど,それでも,歴史が動く瞬間に立ち会わせたジョン・リードの興奮が,どのページからもリアルに沸き上がってくる。

さて,70冊読み終えた。冒頭の大先輩に報告したいところだが,残念ながら,その大先輩はお亡くなりになってしまった。

今なら星空に向かって伝えたい。70冊,読みましたよ,と。

「そうか。ほな,次は80冊目を目指して読め。」と言われそうだが。

世界を揺るがした10日間 (光文社古典新訳文庫)

世界を揺るがした10日間 (光文社古典新訳文庫)

(ひ)