大河ドラマ「鎌倉殿の13人」がいよいよ次の日曜日に最終回。
主人公・法条義時が最後に非業の死を遂げるらしいのだが、どうやって死ぬのか、犯人は誰か・・・一部ネットでは「オリエント急行だ(笑)」という盛り上がりも見せている。
さて、そんなわけで、犯人も知っていて映画も見たことはあるけれど、実は読んだことがない、ミステリーの傑作を、大河の最終回の予習として、読みました。
名作だね。
さて、義時は誰に殺されるのか?
私の推理は・・・。
(こ)
小川哲さんの本が面白そうなのだけれど、どれも分厚いのでちょっと・・・と思っていたところに薄めの新刊が出版。早速読んでみた。『君のクイズ』。
クイズ番組「Q-1グランプリ」の決勝に進出した三島玲央。対戦相手の本庄絆は既に2回誤答しており、あと1回で失格となる。それなのに本庄は、問題が1文字も読まれないうちにボタンを押した――。
架空のクイズ番組を舞台にした小説である。ミステリ要素もあるが、主題は「クイズ」に全てをつぎ込んできた三島の内面描写。「Q-1グランプリ」の終了後、その決勝戦を1問ずつ回想する形で物語が進み、さらにその中で過去を振り返るという、入れ子構造のような形式を取る。
面白かったし、一気に読んだ。ただ、あえて薄めの本を選んだにもかかわらず、「短い」と思ってしまった。人間はわがままである(笑)。今度はもう少し分厚い作品にも挑戦してみようと思う。
装丁は大島依提亜さん。すごく個性的なデザインなんだけれど、それでいて不思議とこの作品の雰囲気にマッチしている感じがする。
オリンピック開催が近づく6月、オリンピックと同じタイミングで謎のスポーツ大会が開催されるらしいという情報がスポーツ新聞の記者である菅谷のもとに飛び込んできた。
どうやら「ザ・ゲーム」というらしい。関係者はメディアの取材には一切口を閉ざし、徹底的に情報を隠している。わかってきたことは、一部の選手に招待状が送られているということ、ネイビアという世界的IT企業がバックについているということ、そして「彼」の理念に賛同してアスリートたちが自腹を切ってでも少しずつ集まりつつある、ということだ。菅谷はいらだちを隠せない。自分たちマスコミを排除して、どうやってスポーツのすばらしさを伝えることができるというのだ?
その理念とは? 「彼」とは・・・?
そして、いよいよアテネで「ザ・ゲーム」が始まった。
2022年9月刊行、書き下ろし。
今でも、東京オリンピック(ほんとうは東京2020であり、オリンピック・パラリンピックなのだが)誘致をめぐる醜態がボロボロと明るみになる中、大阪万博や札幌冬季オリンピック(これもほんとうはオリンピック・パラリンピックなのだが)で二匹目三匹目のドジョウをすくおうという有象無象が相変わらず蠢いている。
(こ)
近現代史の中には、中高生レベルの教科書には出てこないけれど、確実に今の日本の姿の形成に寄与した人たちというのが少なからず存在する。
田中耕太郎も確実にその中の一人であろう。戦前は東京帝国大学法学部教授(後に法学部長)、戦後は文部省の局長から文部大臣、そして参議院議員を歴任した後、10年間にわたって最高裁判所長官を勤め、退官後はオランダ・ハーグの国際司法裁判所裁判官に就任した。カトリック信者でもあり、1960年には教皇ヨハネ23世との私的謁見も行っている。
本書はその田中耕太郎の評伝である。著者は牧原出氏。こちらも久々の一般書となる。
田中耕太郎といえば、裁判官は「世間の雑音」に耳を傾けてはならないとの発言に象徴されるように、「反動的」な最高裁長官とのイメージが付きまとう。しかしこれはあくまでもその一面にすぎない。
戦前は東大教授として大学自治を守ろうとし、戦後は文部大臣として教育基本法の制定に尽力した上、復古主義と共産主義のいずれも排して新憲法を強く支持した。そして、最高裁長官としては、冷戦の激化と左右両勢力の激突という困難な時期において、脆弱な司法権を守り、裁判の独立を確保しようと奮迅していたものである。
著者はいう。「反動的」と呼ばれたのは、組織を守るための代償でもあった、と。
「闘う司法の確立者」との本書の副題が、読後、じわりと心にしみる。
柞刈湯葉という覆面作家の正体はよくわからないのだけれど、元分子生物学者で大学の職を得ていたのだが、任期か何かの関係で職業作家となって中京圏から東京に移り住んだ人だ、ということは知っている。
文才のある(いわゆる)理系の科学者の文章は、ほんとうにおもしろい。
本書は彼が世界を日本を旅しながら書き連ねてきたブログをまとめたものなのだが、肩の力抜けまくりの洒脱さの妙に加えて、その発想と着眼点にいちいち敬服してしまう。
あえてカナダでケベックに行き、琵琶湖の島に上陸し、モンゴルで馬に乗り、静岡の相良油田に立ち寄り、チバニアンの地層も見に行って・・・。
そしておまけの月面旅行記と日本領南樺太旅行記は、SF作家としての面目躍如である。
いやぁ、正直あまり期待していなかったのだけれど、これは掘り出し物だった。
(こ)
(※ネタばれにならないよう配慮していますが、気にされる方は読み飛ばしてください。)
新海誠監督の作品には、本を読むヒロインがしばしば登場する。「雲のむこう、約束の場所」の佐由理は森下さなえ『夢網』(元ネタは大下さなえ『夢網』)を読み、「秒速5センチメートル」の明里は夏目漱石『こころ』を読んでいた。「言の葉の庭」では、ユキノが井上靖『額田女王』と夏目漱石『行人』を読むシーンが印象的である。
最新作「すずめの戸締まり」では、ヒロイン・鈴芽の蔵書として、ツルゲーネフ『はつ恋』が出てくる。ひらがな混じりの表記なので、神西清訳の新潮文庫版がモチーフだろうか。
光文社古典新訳文庫版なら持っているので、久々に再読することに。トゥルゲーネフ『初恋』(沼野恭子訳・光文社古典新訳文庫)。
16歳の少年・ウラジミール。近隣に引っ越してきた年上の公爵令嬢・ジナイーダに初恋をするが――。
大人になったウラジミールの回想という形でつづられるこの作品は、ツルゲーネフ自身の自伝的性格を持つといわれている。主題はそのタイトルどおり「初恋」。少年の目線で語られながらも、女性人気も高いようで、訳者の沼野恭子さんは「私にとって忘れられない大切な作品です。」と述べている。
さて、新海誠監督は、「すずめの戸締まり」の序盤で、ツルゲーネフ『はつ恋』を映し出した。鈴芽が本を読む少女であり、恋愛というものにほのかな憧れを抱いているという印象を与える。『赤毛のアン』や『若草物語』でもよいのだろうけれど、あえて『はつ恋』を持ってきたところに、新海監督らしさを感じる。
『はつ恋』ではヒロインのジナイーダの方からウラジミールの顔にキスをするが、鈴芽が椅子にキスするとき、このシーンが頭をよぎったのかどうか。また、『はつ恋』には、男を「台座」とし、その上にジナイーダが乗って「銅像」になるという「罰ゲーム」の場面があるが、鈴芽は「草太さん、踏んでもいい?」と聞く際にこの場面を想起したか(さすがにないか・・)――など、想像は膨らむ。
作品自体にも符合する点がみられる。
・・・とまあ、自由気ままな考察は尽きない。いずれにせよ、本を読むヒロインの久々の登場である。
小熊英二氏は鈍器本何冊も書いたり自立新書出したり、とにかく膨大な一次資料にあたってそこから非常に大きな問いに対してじわじわと包囲網を狭めていき、そして最後に仕留めるスタイルをとる研究者である。その研究スタイルに刺激を受けたゼミ生の中から、優れた若手研究者が何人も出ているのもうなづける。
その小熊氏が出した「論文の書き方」の本は、よくある文章の書き方の指南書ではなく、「学問と何か」「研究とは何か」ということについて、480ページにわたって一歩ずつ積み上げている。
11の章はそれぞれに完結しており、その内容は、科学とは何かという大きな話から、パラグラフライティングについての解説、調査設計のノウハウ、研究計画の立て方、注のつけ方など、多岐にわたる。
もともと農学を学び、そこから出版社勤務を経て社会学の道に進んだ著者ならではの、いわゆる文理の垣根を越えた視点も貴重である。
類書は山のようにある。その中でも、本書は大学生以上であれば手元に置いて、頭の整理整頓のためにも定期的にパラパラと読み返したらよい本だと思う。
ちゃんと勉強しよ。
(こ)