写真家ユージン・スミスは、太平洋戦争に従軍して決定的瞬間を次々と発信し、その後、フォトジャーナリズムの新境地を開拓していた「LIFE」誌の専属カメラマンとなり、名声を手に入れた。しかし今やその影もなく、酒におぼれる毎日である。そこへ、日本へ来て公害被害者たちの闘いを世界に発信してほしいという依頼が寄せられる。依頼者のひとりアイリーンとともに水俣の地に足を踏み入れたユージンは、人生最後の仕事として、ミナマタに向き合うのであった。
ロケ地がセルビアやモンテネグロであったこともあって、家屋も調度品も風景もなんだか微妙な日本だし、時代考証もめちゃくちゃである。これが幸いし、ここは「熊本県水俣」ではなく、人々が人間の尊厳をかけて強大な権力と闘う「MINAMATA(ミナマタ)」という、ある象徴的な場所として、突き放して観ることができたように思う。
最後に、あの有名な「入浴する智子と母」が登場する。ああ、あれは現代のピエタなのだ。
エンドロールの文章が痛烈。その後に、世界で今なお繰り返される公害の被害者たちの写真が次々と浮かび上がる。
なお、アイリーンさんは京都在住で、京大の近くにユージンのアーカイブをつくっているので、何度かお目にかかったことはある(話したことはないけど)。
ジョニー・デップ製作・主演。真田広之、浅野忠信、國村隼など、国際派俳優が勢揃い。音楽は坂本龍一。
これはジョニー・デップが、ユージンに惚れて、彼になった映画、というべきか。
(こ)
追記:本作品中の「入浴する智子と母」の使用について、許諾の手続きに問題があったという指摘があるので、記しておく。
この写真についてのアイリーン・アーカイブおよびアイリーン・美緒子・スミス氏の見解は次の通り。