大川周明『米英東亜侵略史』(土曜社)

 日本時間1941年12月8日、日本軍はハワイ真珠湾マレー半島を奇襲し、対米英開戦に踏み切った。緒戦の大勝利に日本中は歓喜した。本書はその興奮の真っただ中、12月14日から12日間にわたって行われたラジオ放送の速記であり、「大東亜戦の深甚なる世界史的意義、並びに日本の荘厳なる世界史的使命」を国民に訴え、「国民がすでに抱ける聖戦完遂の覚悟を一層凛烈にし、献己奉公の熱腸を一層温め」ようとしたものである。
 放送の前半6回は「米国東亜侵略史」であり、ペリー来航から日米開戦にいたるまでの経緯を歴史的必然として描写する。後半6回は「英国東亜侵略史」として、「偉大にして好戦」なるイギリス国民が、アジア侵略を重ねてきて、いよいよ日本と衝突するまでを、こちらもまた歴史の必然という文脈において解説する。
 大川博士も気分が高揚していたのだろうか、「敵、北より来れば北条、東より来れば東条」という軽口も飛び出す始末。「元寇の難は皇紀1941年であり、英米の挑戦は西紀1941年であります。」などと、あちこちに神州・日本の卓越性と不滅性を意識した講演内容となっている。

「熟々考え来れば、ロンドン会議以後の日本は、目に見えぬ何者かに導かれて往くべきところにぐんぐん引張られてゆくのであります。この偉大なる力、部分部分を見れば小さい利害の衝突、醜い権力の争奪、些々たる意地の張合いによって目も当てられぬ紛糾を繰り返している日本を、全体として見れば、いつの間にやら国家の根本動向に向って進ませて行くこの偉大な力は、私の魂に深き敬虔の念を喚び起します。私はこの偉大なる力を畏れ敬いまするが故に、聖戦必勝を信じて疑わぬものであります。」(67頁)

 当時の時代の空気がよくわかる。それと同時に、「日本は悪くない、外国が悪い」というこのおめでたいストーリー、最近とみによく聞くようになった。気になる。

米英東亜侵略史

米英東亜侵略史

 

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