大木 毅『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』(岩波新書)

ちょっと話題になっている新書ということで,読んでみた。大木 毅『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』。

1941年6月22日,ドイツ軍がソヴィエト連邦に侵攻。以後,1945年まで続いた独ソ戦。戦闘のみならず,ジェノサイド,収奪,捕虜虐殺が展開され,戦闘員だけでソ連側約866万人~1140万人,ドイツ側444万人~531万人(ただしドイツ側は他の戦線も含む)が死亡した,「あらゆる面で空前,おそらくは絶後」(「はじめに」より)とされる壮絶な戦争である。

本書は,独ソ戦を悲惨ならしめたのは,ドイツおよびソヴィエト連邦の双方がこの戦争を「世界観戦争」,すなわち絶滅戦争ととらえたところにあるという。ドイツ側にとっては,この戦争は「人種主義にもとづく社会秩序の改変と収奪による植民地帝国の建設」をめざすというものであり,ソ連側にとっては「イデオロギーナショナリズムを融合させることで,国民動員をはかった」ものであって,これにより,史上空前の殺戮と参加をもたらした,とのこと(220頁~221頁)。

戦後のソ連においては,大祖国戦争という「神話」を維持するため,都合の悪い史実は隠された。また,戦後のドイツにおいても,対ソ戦の責任はもっぱらヒトラー個人に押し付けられ,やはり都合の悪い史実は隠された。これらの「仮構」は,歴史研究が進み,また冷戦終結による国民意識の変化により,近年になってようやく崩され始めたという。本書もその成果の一つである。

歴史を学ぶことは,我々にとって重要な責務である。

独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 (岩波新書)

独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 (岩波新書)


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