ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)

 

『トリニティ』読みました。
すごすぎる。
今年一番の本が、もう出てしまったのかな。
映像まで見えた。NHKはドラマ化するだろう、きっと。
 

というわけで、ちょっと他の小説を読む気にはならず、気分転換に何気なく手に取った本。それがまた、とてもよかった。

著者は福岡県出身、イギリスで、アイルランド人の夫との間に生まれた男の子と一緒に、ある地方都市で暮らしている。家族が暮らす公営住宅地にはいろんな背景を持った人たちが住んでいる。カトリック系小学校に通っていた優等生の「ぼく」は、そのまま名門中学校に進学せず、地元の元底辺中学校への進学を決める。そこでは毎日が事件の連続だった。

本書は思春期男子の子育て日記であるのだけれど、階級社会イギリス、社会の分断が進むイギリスについてのルポルタージュでもある。新自由主義改革や緊縮財政政策が進んだイギリスの学校教育のようすは、日本の学校の未来像のひとつの可能性のひとつとして見ることもできる。

そして本書は、日本社会についても触れている。居酒屋で日本語を話せない息子のことでからんでくる酔っ払ったサラリーマン、態度を豹変させたレンタルビデオ店の店員の話。

一方でイギリス社会の根底にあるボランティア精神や、empathy(他者への共感、相手の立場に立って考える能力)をベースとしたシティズンシップ教育、「差別には正面から闘うんだ」という徹底した意思、子どもでもデモに参加して発言するのが当然だという空気、そういうことも本書からは伝わってくる。

まさに世界の縮図のような中学校生活を通して、複雑な大人の事情と面倒な常識を、子どもたちはそのたくましさと新鮮な視点で、ときに軽々と、ときに壁にぶち当たりながら、乗り越えていく。
子どもたちは未来そのものなんだと、つくづく思う。

 

ちなみに、この本の装丁も、すっっごく、いいです!

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

 

 (こ)