いしいまき『低収入新婚夫婦の月12万円生活』(オーバーラップ)

 フリーの漫画家の妻と、脱サラしてパン屋を開いた夫。生活費は月12万円(生活保護よりも低い)。

 そこには、たしかに明るくて仲良くて、100円ショップとサブスクをうまく活用しながら、つつましく暮らす夫婦の、「ぜいたくだね~」「めぐまれてるよ~」と足るを知る穏やかな生活が描かれている。

 ある日、妻が病院に検査に行こうとするが、検査費用が3万円だと聞いて躊躇する。そこへ夫が、健康がいちばん大事だからこれで検査に行って、と虎の子のお金を差し出す。妻は夫の愛を感じながら、検査を受けて、問題なかった、めでたしめでたし。

 これまでも、ビンボー暮らしをネタにした作品はいろいろとあった。
 でも、何かが、違う気がした。
 ずっと昔、「セイシュンの食卓」にはまったことがある。ほんとうにビンボーなんだが、一工夫して楽しい料理をつくって暮らすのだ。そこには青春があって、未来が開けていた。どこかに熱量があった。

 この40代の夫婦の暮らしは、静かなのだ。穏やか過ぎて、熱がないのだ。

 内閣府の調査によると、1994年と2019年を比べると、30代から50代の世帯所得の中央値は100万円以上下がってしまったそうだ。

 右肩上がりの日本は消えた。それをひしひしと感じさせた1冊だった。

(こ)