岩井俊二『キリエのうた』(文春文庫)

岩井俊二監督といえば『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』や『Love Letter』なのだろうけれど、僕の中では『スワロウテイル』が印象深い。今のようなネットのない時代、雑誌で読んだ断片的な情報だけで映画館に赴き、冒頭から「なんだこれは…」という戸惑いと衝撃とが入り混じった感情のまま、最後まで見た。こういうエッジの効いた作品の方が、その後何十年にもわたって心に残ったりする。

さて、その岩井俊二監督の最新作『キリエのうた』が来月公開される。監督自ら手がけた原作小説があるというので、読んでみた。

住所不定の路上シンガー・キリエ。マネージャーを自称する謎の女性・イッコ。そして人知れぬ過去を抱えた青年・夏彦。この3人を中心に紡がれる物語である。

様々な音楽が出てくる。懐メロあり、最近の曲ありの中で、きらりと光るのはオリジナルの歌。キリエが作詞・作曲したという設定のそれぞれの曲は、心の叫びであろう。

この作品には音楽の他に、もう一つ、テーマがある。公式がまだ発表していないのでここでも触れないが、仙台出身の岩井監督があえてこれを取り上げた心境は、いかばかりか。

読了後、映画の予告編を観た。キリエはアイナ・ジ・エンドが、イッコは広瀬すずが、夏彦は松村北斗がそれぞれ演じる。当て書きかと思うくらい(実際、当て書きなのかもしれないが)キャラクターがぴったりはまる。

他のキャストも実力派ぞろい。個人的にはイッコ(広瀬すず)の母親役が奥菜恵というのがツボであった。言われてみれば親子っぽい。そういえば、『打ち上げ花火…』のオリジナル版の主人公は奥菜恵が演じ、リメイクアニメ版の主人公は広瀬すずが演じていた。

岩井俊二『キリエのうた』(文春文庫)


(ひ)