遠藤周作『沈黙』(新潮文庫)

10代の頃、初めて読んで、震えた。

2回目は、スコセッシの映画を観た後読み返した。

明日から修学旅行の引率で長崎~外海に行く。現地で読む3回目は、どんな感じだろう。

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沈黙 (新潮文庫)

沈黙 (新潮文庫)

 

 (こ)

太宰治『人間失格』(新潮文庫)

・・・結局,読んでしまった。太宰治人間失格』。

中学生の頃に読んでから,もう何年になるだろう。僕にとっては衝撃であった。当時読んだ小説の中で衝撃を受けたもの(面白かった,ではなく)を3冊選べと言われれば,間違いなく入った。以後,一度も読み返してこなかった。

でも,記憶も随分薄れてきたし,最近の自分の中での太宰ブームにも押されて,再読。

とにかく暗いという記憶だったのだが,改めて読み返してみると,文学性が高い。・・・当たり前だろうと言われるかもしれないが,そう思ったのだから仕方がない。

主人公はどうしようもない男である。でも,突き放すことができない。というより,むしろ,読み手である僕の心の中のどこかを投影しているような,そんな怖さがある。おそろしい小説である。

昭和23年5月12日に脱稿し,その約1か月後の6月13日,太宰は玉川上水に入水する。もう,燃え尽きた,のだろうか(まだ『グッド・バイ』を書いていたけれど)。作家というのは,因果な商売である。

人間失格 (新潮文庫)

人間失格 (新潮文庫)

(ひ)

『出たばい、ちゃんぽん本。』

中学生に、長崎での一日自由行動の計画を立てさせると、とりあえず昼食は「中華街でちゃんぽん」らしいのですけれど、別に中華街と違ってもいろいろあるのになあ、とは思います。
というわけで、今週いちばん印象に残った本が、これ。

自費出版のちゃんぽん本。おいしそう。

出たばい、ちゃんぽん本。

出たばい、ちゃんぽん本。

 

(こ) 

塩野七生『ローマ亡き後の地中海世界 1~4』(新潮文庫)

途中まで読んだところで中断していたのだけれど,今回,ちょっと再読。最後まで読んだ。塩野七生『ローマ亡き後の地中海世界 1~4』。

西ローマ帝国滅亡後,地中海世界に台頭してきたイスラム世界と,これに対応するキリスト教世界との攻防記である。ベストセラー『ローマ人の物語』の続編という見方もできなくもないが,どちらかというと,『海の都の物語』(これも面白かった。)などで何度も取り上げてきた地中海世界について,作者としての集大成の作品,という位置づけの方がより正確かもしれない。

終盤,塩野七生は問う。歴史は,個々の人間で変わるのか,変わらないのか。歴史学者たちは「変わらない」と言い,塩野七生はこれに対して,半ばくらいなら「変わる可能性はあるのではないか」と考える。同じ歴史を眺めていても,「学者」と「作家」とでは視点が違う。なかなか興味深いところである。

将来,もし時間とお金が少しできれば,この本の舞台となった史跡を,少しでもよいので訪問してみたい。まあ,いつになるのか分からないけれど。


(ひ)

西岡由香『愛のひと ド・ロ神父の生涯』(長崎文献社)

 東シナ海に面した外海(そとめ)は、潜伏キリシタンの村であり、遠藤周作『沈黙』の舞台となったといわれる。国道沿いには「沈黙の碑」が建てられて、角力灘を見下ろす岬の上には3万点もの彼の遺品が納められた遠藤周作文学館がある。

 その外海に明治の初めにやってきて、「外海の太陽」と呼ばれたひとりの神父がいた。マルコ・マリー・ド・ロ神父である。

 神父の生涯を描いた本書は少女マンガのタッチなので、ちょっと盛りすぎ、美化しまくってるんだろうと思っていたのだが、知れば知るほど、この神父、マンガの世界から飛び出してきたようなすごい人だったらしい。

 セレブ(貴族の息子でお小遣い3億円ほど持って来日しその私財を惜しげもなく投入)で、インテリ(建築・印刷技術・医学・薬学・農業・教育・経済学・産業振興・経営に優れる)で、長身で、イケメンで、笑顔が素敵で、どんな人にも優しくて、フェミニスト(女子教育に尽力)で、子どもにも大人気、ときたら・・・。

 むしろ外海は、禁教の時代の迫害という暗黒の歴史の中でではなく、ひとりの神父によるまちづくりとひとづくりの歴史が息づく明るい村として、今を生きている。世界遺産登録された白亜の出津教会堂ド・ロ神父の手によるものであり、外海のランドマークとなっている。

 「日本二十六聖人記念館」「大浦天主堂」「外海」と訪れることで、日本のキリスト教の歴史が一本の線でつながる。
 その外海に、中学生たちを連れて、再来週お邪魔してきます。

 

*なお、ド・ロ神父についての研究書としては『ある明治の福祉像』(NHKブックス、絶版)がもっとも詳しい(・・・と学芸員さんに教えてもらった)。

愛のひと―ド・ロ神父の生涯

愛のひと―ド・ロ神父の生涯

  

(こ)

太宰治『津軽』『ヴィヨンの妻』(新潮文庫)

太宰治。中学生の頃に『斜陽』とか『人間失格』とか『富嶽百景』とかを読んだのだけれど,まあ一時的なものにとどまり,その後全く読んでいなかった。

先日,ふと書店の文庫コーナーで太宰の本が目にとまった。こういうの,中学・高校生くらいの時に読みこぼしてしまうと,そのまま一生読まなかったりするんだよな・・・などと勝手なことを思いつつも,せっかくなので読んでみることにした。とりあえず,代表作の一つ,『津軽』。

久々に読んでみて,思った。太宰,文章うまいなあ。

・・・何を今更と言われそうだが,実際そう感じたのだから仕方がない。『津軽』は,基本的には軽い文体の旅行記の体裁なのだが,内心の吐露あり,自虐あり,邂逅ありで,読者を飽きさせない。のみならず,終盤の「たけ」との再会場面は,さすが太宰。「ちょっと本気出せばこのくらい感動的な文章を仕立て上げることもできるんですよ」といった感じで,実力見せつけまくりである。

その勢いで,短編集『ヴィヨンの妻』も読んだ。こっちはこっちで,罪悪感とか自責の念とかが出まくりである。

新潮文庫編『文豪ナビ 太宰治』(新潮文庫)も読んでみた。平成16年刊行のナビ本である。ところどころに綿矢りさの名前が出てくるのが,ちょっと時代を感じさせる(芥川賞受賞直後だったか。)。収録されている島内景二「評伝 太宰治」が面白かった。

津軽 (新潮文庫)

津軽 (新潮文庫)


ヴィヨンの妻 (新潮文庫)

ヴィヨンの妻 (新潮文庫)


文豪ナビ 太宰治 (新潮文庫)

文豪ナビ 太宰治 (新潮文庫)

(ひ)

本田由紀編『文系大学教育は仕事の役に立つのか』(ナカニシヤ出版)

 今年8月、NHK Eテレの「バリバラ」に「障害者×戦争」という回があった。戦時下で「穀潰し」「役立たず」と言葉を投げつけられ続け、中には身内から命を奪われかけた人の証言もあった(きっと実際に手をかけられ命を落とした人はたくさんいたのだろう)。ナチスのように政策として実行されなかったにしても、優生思想のもとで「役に立たない」人間は生きている価値がないという考えが広く浸透していたということだろう。今では「戦争に役立つ」ではなく「経済成長に役立つ」と形を変えて、人を選別する基準となっているというコメントが番組の中で出されていた。
 それ以来、「役に立つ」って何だろうという考えが、しばしば頭をかすめるようになった。「誰にとって役に立つのか」「役に立たないと決めるのは誰か」「役に立たないと決めつけた人自身はほんとうに役に立っているのか?」などというぼやきのようなことを、ときどき授業でも口走るもので、とうとうある日のクラスの日誌が「今日は体育の時間に役に立ってうれしかった」だとかいう「役に立ったネタ」で埋められてしまった。

 さて、 2015年に文科省が大学の学部再編を通知して以来、「文系学部廃止」に関する書籍がちらほらと出てくるようになった。その一連の流れの中で出された本書は、8人の教育社会学者がそれぞれの視点から「文系大学教育は役に立つのか」という共通テーマのもとに書いた論文集である。きちんと学術論文の体裁をとっていて、新書だとか教養書とは一線を画している。

 もちろん著者たちは、政府主導で役に立つ研究と立たない研究を選別するような態度や、外部人材を登用しないと大学を生き残らせないという大学政策に対して、猛烈に反発しているのだけれど、それでもやはり、データにもとづいて議論し解決策を社会に向けて提示していかなければならないという思いで、本書をまとめている。

 入学前後の能力の違いの計量分析や、大学生の「役に立っている」という意識の調査、さらには「役に立たないと思われるのはなぜか」という研究まで、分析はそれぞれにおもしろい。

 ただしこの「役に立つ」うんぬんについては、たとえば大学側が受験生に向かってしきりに「役に立つ」ことを強調して募集をかけたり、教育社会学でも「教育のレリバンス」の問題として「役に立つ」問題を仕掛けてきたような過去がある。その話がブーメランとなって、大学や教育学の世界に襲いかかってきたようにも見える。

 ともあれ、生きていく資格がないと口走るならば、「役に立たなければ」「生産性がなければ」ではなくて、「優しくなければ生きていく資格がない」と言ったフィリップ・マーロウの方が、ずっとかっこいい。

文系大学教育は仕事の役に立つのか―職業的レリバンスの検討

文系大学教育は仕事の役に立つのか―職業的レリバンスの検討

 
プレイバック (ハヤカワ・ミステリ文庫)

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 (こ)