田崎健太『スポーツ・アイデンティティ どのスポーツを選ぶかで人生は決まる』(太田出版)

 スポーツの競技種目と性格の関係というのはありそうな気がするし、うちのチビにはどんなスポーツが向いているのかなというのは興味があることなので、読んでみた。

  著者はスポーツライターというよりはノンフィクションライターで、数多の取材対象の中にはアスリートもたくさんいて、その経験から、スポーツ(さらにはポジション)と性格の関係を解きほぐしていく。

 たとえば、マラソンランナー向きの性格、野球の投手向きの性格・捕手向きの性格、サッカーのストライカー向きの性格・センターバック向きの性格、ラグビー、ゴルフ、水泳、プロレス・総合格闘技、などなど。著者はそれを「SID(スポーツ・アイデンティティ)」を名付け、それがマッチした好例や、反対にマッチしなかったがための不幸などを、たくさんの例を挙げて述べている。意外な競技どうしが親和性があったり、SIDとビジネスや政治の関係にまで話は広がる。

 寝技と立ち技の違い、総合格闘技とプロレスの違い、ゴルフにおける英才教育と「1万時間の法則」など、なるほど、と思うところは多いものの、「それじゃ、この人は・・・?」などと反証を考え始めたら止まらなくなってしまった。
 挙げ句の果てに、結論は「集団スポーツのSIDにも「個」が、個人スポーツのSIDにも「集団」が必要だ」というのだから、きちんとした論証をしようとした本ではないことは重々承知しながらも、SIDという概念にはかなりの無理がある。

 もっとも、著者が話者の懐に入り込んで積み重ねてきたインタビューから引き出される、スター選手たちの別の顔を、次々と読み進めていくのは、楽しい作業であった。スポーツ教育の本という宣伝文句ではあるが、ふつうにノンフィクションとして読むべき本である。

スポーツ・アイデンティティ どのスポーツを選ぶかで人生は決まる

スポーツ・アイデンティティ どのスポーツを選ぶかで人生は決まる

  • 作者:田崎 健太
  • 発売日: 2020/05/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 (こ)