野村正實『雇用不安』(岩波新書)

 「経済学を学ぶのは、経済学者にだまされないためである」というのがほんとうかどうかはさておき、書店に並ぶ経済学者あるいはエコノミストの本のうち、はたしてどれが正しくて、どれがあやしいのか、という判断は難しい。
 ただ、リアルタイムではわからなくても、何年かしてから読み返しても、十分に読むに値する本というのは、おそらくはホンモノなのだろう。そしてそういう本は意外と少ない。
 足元には、過去のいろんな本が死屍累々と積み重なっている。
 パソナの会長としていろんなところに顔を出して政策実現に精を出し、せっせと日本を売り飛ばしていらっしゃる某先生の本もあるけれど、残念ながら、読んだ瞬間の耳障りはいいが、中身は時代の検証に耐えられる代物ではない。

 さて、本書が書かれたのは20年前(1998年)、まだ派遣法が改正される前で、非正規雇用ワーキングプアが社会問題化する以前のことである。あるいはロードサイドの大型ショッピングセンターが駅前商店街を駆逐していく以前のことである。
 著者は日本の低失業率を「全部雇用」という概念によって説明する。たとえば、なかなか解雇に踏み切らない企業や、家族労働によって成り立つ自営業などが、バッファーとなりセーフティネットとして機能していた。その安定的な雇用環境が切り崩されることで、労働者は直ちに労働市場におけるヒリヒリとした競争の中に投げ込まれる。それは果たして、幸せな社会なのだろうか・・・?

 20年前に読んだときに感じたもどかしさは、今でもはっきりと覚えている。
 その後の顛末は、本書が指摘したとおりである。

雇用不安 (岩波新書)

雇用不安 (岩波新書)

 

 (こ)