暴走するネット広告: 1兆8000億円市場の落とし穴 (NHK出版新書)
- 作者: NHK取材班
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2019/06/11
- メディア: 新書
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暴走するネット広告: 1兆8000億円市場の落とし穴 (NHK出版新書)
本書は6月ごろに話題になってそのときに手にしたものなので、ちょっと時期が遅い気もするけれど、参議院議員選挙が終わったということもあるので、メモ代わりに感想を書いておこうかと・・・。
本書は、左派勢力に対して渾身の支持を与え続けてきた筆者が、どうして左派が勢力を拡大できなかったかを考察した、自省録である。
本書をざっくり要約すると、「日本のリベラルはコドモだから、もっとオトナになろうよ! 清濁併せのむ度量を見せて、仲間を増やそうよ!」というところか。
このことはずっと昔から言われてきたことで、有名なのは「社会党の左翼バネ」だろう。社会党には何度か政権獲得のチャンスがあったのに、そのたびにお得意のお家騒動と内ゲバによって自滅してきたというやつである。
もっとも「リベラルが敗れる」というけれども、リベラルの定義はきわめて曖昧だし、世界中で(筆者のいう)リベラルが苦戦しており、今の日本のリベラル勢力の退潮は、世界的なトレンドとして見ることもできるようにも思う。それに自民党と公明党はリベラルに対抗する「保守」なのかというとそうではない。鵺みたいなものだ。
参院選についての評価はいろいろとあるのだろうが、個人的には「れいわ」と「N国」とがそれぞれ政党要件を満たした上で議席を獲得した選挙だった、ということになるのかなぁ、と思う(授業で使う教科書や資料集にも登場するわけですから!)。仮にこれらの政党をポピュリズム政党とみなすのであれば、この現象はヨーロッパ議会選挙でもっと大規模に起きていることなので、日本でもかぁ、という気分である。そんな矢先、イギリスではジョンソン首相が誕生したわけで、民主政治はさらなる進化(?)を遂げることになるのだろうか。
・・・とまあ、話題にはなったけど、どうして買って読まないといけないほどではない本でした。以上。
(こ)
窪美澄『トリニティ』は直木賞にあと一歩届かなかった。決選投票には残ったが,「実在する出版社をモデルとしており,当時を知っている選考委員も多く,厳しい意見が多かった」とのこと。そう言われてしまうと仕方がない気もするが,やはり残念である。次に期待したい!
さて,一方の芥川賞。こちらも受賞したのは古市憲寿ではなく,今村夏子『むらさきのスカートの女』。どんなものか,ちょっと読んでみた。
・・・これは,一種の狂気だねぇ。
近所の「むらさきのスカートの女」が気になって仕方のない「わたし」の話。
文体は軽めでユーモアさえ感じられるのだけれど,怖い。ホラーとかそういうのではなくて,怖い。怖さとおかしさというのは,紙一重なんだな,などと思ったりする。
芥川賞受賞,納得だなあ。おめでとうございます。
単なる話題先行の作品だと思っていたが(ごめんなさい),書店でぱらぱらめくってみたところ,面白そうだったので読んでみた。古市憲寿『百の夜は跳ねて』。
高層ビルの窓拭きをしている「僕」。ある日,たくさんの箱の積まれた部屋の中にいる「老婆」と目が合い・・・。
思ったよりも良かった,というのが率直な感想である。ストーリーも,そして文体自身もよく練られており,読み応えがあった。窓ガラスの内側と外側。生者と死者。過去の戦争の記憶から,現在の格差社会,果てはYouTube,iPhoneやウェアラブルカメラといった様々な現代のツールまでを幅広く取り入れながら,この物語は,人の「生き方」というものに,ちょっとだけ触れていく。
今回の芥川賞候補作でもある。ベテラン選考委員たちの心にどこまで響くかなあ。
芥川賞の発表は,直木賞と同じく,今週7月17日の予定である。
『トリニティ』読みました。
すごすぎる。
今年一番の本が、もう出てしまったのかな。
映像まで見えた。NHKはドラマ化するだろう、きっと。
というわけで、ちょっと他の小説を読む気にはならず、気分転換に何気なく手に取った本。それがまた、とてもよかった。
著者は福岡県出身、イギリスで、アイルランド人の夫との間に生まれた男の子と一緒に、ある地方都市で暮らしている。家族が暮らす公営住宅地にはいろんな背景を持った人たちが住んでいる。カトリック系小学校に通っていた優等生の「ぼく」は、そのまま名門中学校に進学せず、地元の元底辺中学校への進学を決める。そこでは毎日が事件の連続だった。
本書は思春期男子の子育て日記であるのだけれど、階級社会イギリス、社会の分断が進むイギリスについてのルポルタージュでもある。新自由主義改革や緊縮財政政策が進んだイギリスの学校教育のようすは、日本の学校の未来像のひとつの可能性のひとつとして見ることもできる。
そして本書は、日本社会についても触れている。居酒屋で日本語を話せない息子のことでからんでくる酔っ払ったサラリーマン、態度を豹変させたレンタルビデオ店の店員の話。
一方でイギリス社会の根底にあるボランティア精神や、empathy(他者への共感、相手の立場に立って考える能力)をベースとしたシティズンシップ教育、「差別には正面から闘うんだ」という徹底した意思、子どもでもデモに参加して発言するのが当然だという空気、そういうことも本書からは伝わってくる。
まさに世界の縮図のような中学校生活を通して、複雑な大人の事情と面倒な常識を、子どもたちはそのたくましさと新鮮な視点で、ときに軽々と、ときに壁にぶち当たりながら、乗り越えていく。
子どもたちは未来そのものなんだと、つくづく思う。
ちなみに、この本の装丁も、すっっごく、いいです!
(こ)
地方において強く感じられるのが,地銀の存在感である。
駅前とか街中とかの一等地に大きくて立派な本店がある。街のあちこちで支店を見かける。様々な公共イベントの後援・スポンサーになっていることも少なくない。
その地銀が,今,危機にあるという。日本経済新聞社編『地銀波乱』。
昨年,スルガ銀行の不正融資問題が発覚し,話題となった。だが,そんなものは氷山の一角にすぎない,と本書はいう。全国にある106の地方銀行の多くが本業の連続赤字に苦しんでいるのである。
人材も集まらない。新卒が来ず,優秀な中堅・若手は去っていく。「いまの地銀はかつての石炭産業を見るようだ」との発言が,重い。
地銀の衰退は,そのまま地方の衰退になっていくのか。