鎌田浩毅『富士山噴火と南海トラフ』(講談社ブルーバックス)

 東京に向かう新幹線の中で、この本を読みながら、今、富士山が噴火したら、京都にはしばらく帰れないんだよなぁ・・・などと考えてみた。

 「火山灰」「溶岩流」「噴石・火山弾」「火砕流・火砕サージ」「泥流」「山体崩落」のどれひとつとっても、その被害はただではすまない。さらに、南海トラフ巨大地震が連動したとしたら・・・。

 火山灰の被害ひとつとっても、アウトだろう。火山灰は細かいガラスのかけらなので、気管や肺が傷つけられ、ライフライン交通機関をズタズタにする。積もった火山灰は水で流せないので処分に困り、放っておくと家屋が押しつぶされる。

 天はきっと落ちてこないから杞の人の憂いは笑いの種になったけれど、富士山は必ずいつか噴火する。覚悟して準備するに越したことはない・・・とはいえ、どうしたものか?

 今年は祇園祭が始まって1150年にあたる。864年に富士山が噴火し、869年に貞観地震が東北を襲った。悪霊を鎮め穢れを除くために、66基の矛と3基の神輿が京の街に出たのが最初だという。
 この国が火山国であり地震国であることを改めて思い起こしながら、今月は、祇園祭を通して世の平安を祈願しようと思う。

富士山噴火と南海トラフ 海が揺さぶる陸のマグマ (ブルーバックス)
 

 (こ)

宗田 理『ぼくらの七日間戦争』(角川文庫)

ぼくらの七日間戦争』がアニメ映画化されると聞いた。

青少年向け小説の古典でありながら,実はこれまで読んだことがなかった。こういうのって,自分が青少年の頃に読まなかったら一生読まないんだよな・・・と思いつつ,この際読んでみた。

・・・おお,こういう話だったのか。

中学1年2組の男子生徒全員が,河川敷にある工場跡に立てこもり,大人たちに「反乱」を起こす物語。・・・なのだが,本書が出版されたのは昭和60年。まだ太平洋戦争の記憶がかすかに残り,また学生運動の記憶がはっきりと残っていた時代である。作品中にもこれらがあちらこちらに顔を出す。

宗田理はかつて,本作品を「全共闘世代の大人に対するパロディとして書いた」と述べていたそうである。それがいつしか,30年以上もの時を経て読み継がれ,アニメ映画化までされるという。面白いものである。

さて,どんな映画になるのか。本作品中で生き生きと動き出していた少年たちはどのように描かれるのか。早速,興味を持って予告編を見てみた。

・・・全然違う話になっとるやないかーい!(笑)

ぼくらの七日間戦争 (角川文庫)

ぼくらの七日間戦争 (角川文庫)


(ひ)

津原泰水『ヒッキーヒッキーシェイク』(ハヤカワ文庫JA)

 津原やすみ、という作家さんはこれまで読んだことがなかったのだが、幻冬舎の見城社長とのtwitter上での泥仕合を観戦して、それなら読んでみようかな、と逆炎上商法に乗っかってみた。

 たしかに幻冬舎からハードカバーで出したら1,800冊しか売れなかったのも納得。これはやっぱりハヤカワか創元社あたりから文庫で出さなくちゃ(そもそも「ヒッピーヒッピーシェイク」を知らないので、そのあたりのおもしろさもわからなかったし)。

 主人公は4人の「引きこもり」=ヒッキーたち。ライトノベルかなって感じの書き出しで、登場人物の名前もややこしくて、生理的に受け付けなかったのだけれど、バラバラだった前半のパーツが後半に合体ロボットみたいに巨大化して、一気にクライマックスへとなだれ込むあたりは、けっこう圧巻。前半我慢したご褒美というところだろうか。ヒッキーたちの未来に幸あれ!

 で、売れたのかな。 

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ヒッキーヒッキーシェイク (ハヤカワ文庫JA)
 

 (こ)

窪 美澄『トリニティ』(新潮社)

2019年度上半期の直木賞候補作が,以下のとおり発表されました。

朝倉かすみ『平場の月』(光文社)
大島真寿美『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』(文藝春秋
窪美澄『トリニティ』(新潮社)
・澤田瞳子『落花』(中央公論新社
原田マハ『美しき愚かものたちのタブロー』(文藝春秋
・柚木麻子『マジカルグランマ』(朝日新聞出版)

先週予想していた柚木麻子,窪美澄原田マハがノミネート! また,当ブログで過去の作品を紹介していた澤田瞳子もノミネートされました! さらに今回は,今年の山本賞で絶賛されていた朝倉かすみも入っています。う~ん,レベルが高い。

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さて。

その窪美澄のノミネート作である。『トリニティ』。

フリーライターの登紀子。イラストレーターの妙子。専業主婦の鈴子。戦後の昭和から平成までそれぞれ戦い抜いた3人の女性を,鈴子の孫・奈帆の視線も交えながら,壮大に紡ぎだした大作である。

昨年,当ブログで『じっと手を見る』を紹介した際,僕は「窪美澄が,少し,殻を破り始めたのかもしれない。」と書いた。本作『トリニティ』は,殻を破り始めたどころではない。化けた。大変身した。これまではどちらかというと,半径10メートルくらいの身近な生活を描いた作品が多かった(それはそれでとても面白かった)が,本作では,戦後の日本における女性の「生き方」というものを,様々な歴史的出来事も織り込みながら見事に描き出している。

久々に,時間がたつのも忘れて読むのに没頭した一冊である。

断言したい。窪美澄は,きっとこの作品で直木賞を取る。

トリニティ

トリニティ


(ひ)

佐藤弘樹『賢人の雑学』(知的シゲキBooks)

 京都・北山にFM局が開局したのが25年前。大阪じゃなくて自分の見上げている空模様がラジオから流れてくるのが、うれしかった。

 目覚まし時計代わりにタイマーでつけていたラジカセから、7時になると、

「おはようございます、さとうひろきです。今朝の京都北山は・・・」

というバリトンボイスが響く。FM802のヒロ寺平とは真逆の、ゆったりした朝の始まりである。

 その後、「今朝の京都北山は」じゃなくて「今朝の京都烏丸四条は」になったし、部屋のラジカセじゃなくて車のラジオで聴くようになったりしたけれど、朝はあの声があるのが当たり前となっていた。

 25年間、毎朝、お世話になりました。
 これからは少し朝寝坊してください。

 

*佐藤弘樹さんのご逝去が、6月17日、α-stationから発表になりました。
 ご冥福をお祈りします。

賢人の雑学 (知的シゲキBooks)

賢人の雑学 (知的シゲキBooks)

 
英語+α―ヨコ文字信仰タテ社会 (α‐ラジオブック)

英語+α―ヨコ文字信仰タテ社会 (α‐ラジオブック)

 

(こ) 

土橋章宏『引っ越し大名三千里』(ハルキ文庫)

いよいよ直木賞候補作発表の季節がやってまいりました。
当ブログで紹介した米澤穂信『本と鍵の季節』,木皿泉『カゲロボ』,柚木麻子『マジカルグランマ』はノミネート入りするのか?
窪美澄原田マハらの直木賞待望組はどうなるのか?
そして,芸能界作家・最後(?)の大物,ビートたけしは?
候補作発表は,6月17日(月)の予定です。

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さて。

重めの本が続いていたので,たまには軽いタッチの本をと思い,読んだのがこちら。土橋章宏『引っ越し大名三千里』。

時は江戸時代。生涯に7度の国替えをさせられ,「引っ越し大名」と呼ばれた松平直矩。その家臣らの働きを描いた時代小説である。

どの登場人物も,生き生きと,かつコミカルに描き出されている。一見深刻そうにみえて,さわやかな笑い。楽しく読めました。

ところでこの作品,星野源主演で映画化され,8月に公開されるという。予告編を見る限り,こちらも面白そうである。

引っ越し大名三千里 (ハルキ文庫)

引っ越し大名三千里 (ハルキ文庫)


(ひ)

星野博美『転がる香港に苔は生えない』(文春文庫)

 先週末、香港で「逃亡犯条例」に反対する100万人規模のデモが起きた。
 5年前の「雨傘運動」の経験を活かし、当局は早めに潰しにかかっている。

 香港と聞いてまず思い浮かんだのは、星野博美のこの傑作ノンフィクションである。
 香港返還前後の香港の街に暮らす市井のひとびとの姿を、彼女のあたたかくも鋭い人間観察のまなざしによって浮かび上がらせる。泥の中の蓮みたいで、なんだか切なくて。はじめて読んだときに、心を鷲掴みにされたことを、思い出す。

 なお、香港社会に関する学術書は意外となくて、岩波新書の『香港』が基本書ともいえそうだ。
 著者のひとりの張さんは10年来の知り合いなのだが、雨傘運動以降、言論の自由がなくなってきたことに危機感を感じて、とうとうこの4月から、日本の大学に移ってきてしまった。
 この先、日本が香港からの「政治難民」の受け皿になる可能性はあるのだろうか・・・なんてことを考えている今も、香港の街路では催涙弾が飛び交い、人民解放軍の特殊車両が貨物列車に乗せられて南へ輸送中なのだという。

 

転がる香港に苔は生えない (文春文庫)

転がる香港に苔は生えない (文春文庫)

 
香港 中国と向き合う自由都市 (岩波新書)

香港 中国と向き合う自由都市 (岩波新書)

 

(こ)