聖徳太子『法華義疏(抄)・十七条憲法』(瀧藤尊教ほか訳,中公クラシックス)

『もういちど読む山川倫理』に,「十七条憲法」の興味深い解説があった。第一条の「和」の精神とは,ただ周囲に同調せよという意味ではなく,「みんなが集まってさまざまな意見を述べ合う中から,物事の正しい道理を見い出そうとすること」を指すというのである。

なかなか面白いなあ,と思い,この際,ちょっと読んでみることにした。中公クラシックス版の『法華義疏(抄)・十七条憲法』である。内容は,聖徳太子の著した三経義疏(さんぎょうぎしょ)のうち「法華義疏」の抄訳と,「十七条憲法」の全訳である。あわせて,聖徳太子の最古の伝記「上宮聖徳法王帝説」の全訳も収録されている。

徹底した平等思想を説いた法華経の注釈「法華義疏」。日本最古の政治哲学書ともいうべき「十七条憲法」。聖徳太子についてはその実在も含めて議論があるところだけれど,これらのテキストが千数百年も前に成立していたことは確かであるわけで,そう思うと,なかなか感慨深いものがある。

「他人が正しいと考えることを自分は間違っていると考え,自分が正しいと考えることを他人は間違っていると考える。しかし自分が必ずしも聖人なのではなく,また他人が必ずしも愚者なのでもない。両方とも凡夫にすぎないのである。正しいとか,間違っているとかいう道理を,どうして定められようか。」(第十条)

「他人を嫉妬してはならない。自分が他人を嫉めば,他人もまた自分を嫉む。そうして嫉妬の憂いは際限のないものである。」(第十四条)

「重大なことがらは一人で決定してはならない。必ず多くの人々とともに論議すべきである。」(第十七条)

(ひ)