向坂くじら『いなくなくならなくならないで』(河出書房新社)

米津玄師と藤本タツキの対談がつい先日公開されて、その中で米津さんが「すごく面白かったんですけど」と言いながら紹介していたのが、向坂くじら『いなくなくならなくならないで』。

米津さんが推すくらいなので、これはちょっと読んでみようと思って読んでみた。

大学生の時子は、死んだはずの友人・朝日(あさひ)からの電話を受ける。やがて時子は、朝日との同居生活を始めるが――。

果たして朝日は死んでいたのか、それとも死んでいなかったのか。足元がぐらつくような不安定な状況の中で、読者はただただ時子の心の揺れを追いかける。描かれているのは、「親友」だった者に対する複雑な思い。いなくならないでほしいという感情と、いなくなってほしいという感情の間で、時子の心は揺れ動く。

しばしば挿入される、現実とも非現実ともつかない挿話。「胸のえぐれ」や「石」は何かの象徴なのか、あるいは時子の心象風景か。朝日が買ってきたビーズクッションに対する、時子の複雑な思いは妙にリアルである。

改めて米津さんの対談を聞いてみたら、米津さんは本書について「愛し合うがゆえに、どうしてもいなくなってほしいと思うような時って、あるよなっていう。」と発言していた。ああ、この人の解像度の高さにはかなわない。


(ひ)