『更級日記』(原岡文子訳注・角川ソフィア文庫)

大河ドラマ「光る君へ」に菅原孝標女が登場すると発表された。後に『更級日記』を書くことになる女性である。

更級日記』は江國香織さんの現代語訳で読んだことがあったが(当ブログでも紹介した)、この際ちゃんと読んでみようと思い、手を出した。

まずはいつものように「ビギナーズ・クラシックス 日本の古典」シリーズから川村裕子編『更級日記』を読むことに。毎度毎度のことながら、たった数百円で古典作品の基礎が分かるというのは、奇跡に近い。

そしていよいよ原岡文子訳注『更級日記』へ。

一度は現代語訳を読んでいることから、今回は「脚注だけで原文を読む」ことにチャレンジしてみた。

上総の国で育った作者。姉や継母から話を聞いた「源氏物語」を読んでみたくてたまらない。やがて都に上り、そこでついに「源氏の五十余巻」を入手!(ちなみにこれが、源氏物語の巻数の最も古い記録だという。)

源氏物語を読みふける彼女だが、そこであこがれるのが紫の上や明石の君とかではなく、「夕顔」や「浮舟」だというのが興味深い。脚注を見ると「夕顔や浮舟は、身分の上でも、作者が現実に感情移入しやすい女君だった」とある。なるほど。

以後、継母とのお別れ、猫との出会いと別れ、そして姉の死亡など、様々な出来事が彼女に降りかかる。また、宮仕え、そして突然の結婚と、彼女自身の人生も大きく動いていく。

晩年は宗教への帰依とこれに伴う悔恨・・・だが、他方で物語や歌に対する関心も垣間見える。

・・・というわけで、原文で全部読みとおした。とはいっても実は脚注だけで読めたのは前半から中盤にかけてまでで、後半は「主語が分からん!」「これどういう意味?」「そもそもどういう状況!?」の連続で、しばしば現代語訳も参照した。

孝標女は、清少納言紫式部のようなスーパー天才でもないし、藤原道綱母のような最高権力者の妻というわけでもない。むしろ目線は僕らに近く、どこかに書いてあった「オタク気質の文学少女」というのがぴったりくる。とはいえその日記文学が1000年後まで読み継がれるというのは、やっぱりすごい。


(ひ)