「又三郎」「老人と海」「月に吠える」などと続いてきたヨルシカの文学オマージュシリーズだが、昨年8月のリリース曲は「チノカテ」。ジッド『地の糧』のオマージュである。
さすがに『地の糧』を読んだ人は少ないのでは、というかそもそも書店に売っていない・・・などと思っていたら、なんとこの4月に新潮文庫版が復刊した。1981年以来、実に40年ぶりの復刊だという。ヨルシカすげぇ。
早速購入してみた。ヨルシカコラボの限定カバーが映える。
「君はすっかり読んでしまったら、この本を捨ててくれ給え――そして外へ出給え」
寺山修司の『書を捨てよ、町へ出よう』の引用元ともされるこの作品。冒頭から「ナタナエル」とか「メナルク」とか出てきて戸惑う。そもそもこれは、詩なのか、エッセイなのか、それともフィクションなのか。
一言で言えば、若者に向けた、人生・全肯定の書である。
新潮文庫版の初版は昭和27年発行。単行本はそれよりもかなり前らしい。戦中・戦後の文学青年らに本書はどう響いたか。
「チノカテ」の歌詞にある「夕日を呑み込んだコップ」も「花瓶の白い花」も出てこないし、日本語訳は格調高く、今となっては読み進めるのも苦労するけれど、これはこれでなかなか得難い読書体験であった。
(ひ)