青山直篤『デモクラシーの現在地 アメリカの断層から』(みすず書房)

 「トランプ現象」が、連邦議会襲撃という最悪の事態によっていったんは下火となったものの、来年に迫った大統領選挙を前に、また少しずつ再燃してきているらしい。本書は、筆者が朝日新聞アメリカ特派員時代に取材した、トランプ政権とそれを支えた草の根保守主義者の素顔を丁寧に書き連ねた記録である。その間、多くの要人や知識人にも取材しており、理論と現実とを行ったり来たりしながら、思索を深めてゆく。そしてその道案内をするのはトクヴィルである。筆者は、19世紀にトクヴィルが見たアメリカのデモクラシーを21世紀に再確認する旅に出た。

 そこで出会ったトランプを支えた人たちの多くは、経済的には恵まれなくともしっかりと地域に根を張り、家族と神への信仰を大切にしながら、愚直に働き、毎日を過ごしていた人たちであった。
 実質所得の増加を示すグラフが象の形で表される(エレファント・カーブ)ように、世界経済は象の背に当たる新興国の中間層のもとに冨をもたらし、象の鼻の付け根にあたる先進国の中流層を没落させ、象の鼻の先にあたる一部の富裕層に冨をさらに集中させた。はっきりとは書いていないが、筆者は、額に汗して愚直に働く人によってデモクラシーが支えられ、彼らが報われるような社会が来ることを祈っていた。それこそがトクヴィルが驚いたデモクラシーの強さの秘訣なのだろう。
 アメリカで起きていることは、日本でも起きている。ただし日本においては、アメリカのような大地にどっしりと根を張った草の根の保守層は枯渇してきている。日本でこれから激しくなる分断による政治的混乱は、どこへ向かうのか。日本でトランプに相当するアイコンは誰か・・・。

 ひとつだけ残念なのが、読みづらいことだ。その原因は文体にある。
 新聞と同じ文体で300ページを超える(しかもみすず書房なので字も小さい)単行本を書いたことで、新聞紙の束をひたすら読まされている感じになった。新聞の文体はたとえば、字数を減らすために接続詞を挟まないことが多く、通じやすさを重視するために文頭に主語を置くことが多い。なるほど、それが新聞紙の8分の1くらいの分量ならば読みやすい。しかし、それが淡々と続くのだ。
 もっとも、この文体なので、腰を落としてじっくりと読み進める必要がない。しかしそれでよかったのかな。

(こ)