門井慶喜『江戸一新』(中央公論新社)

 『家康、江戸を建てる』から時が経ち、時は4代家綱の御代である。

 のちに「明暦の大火」と呼ばれる火災は、江戸の街を焼き尽くし、10万人とも言われる死者を出した。その江戸の復興に立ち向かったのが、「知恵伊豆」こと老中松平信綱であった。松平信綱は歴史教科書なんかでは島原の乱(島原天草一揆)の鎮圧の過程で登場する方がもしかすると有名かも知れないが、彼の本当の偉業はこれではない。江戸の再建という空前の大事業に挑んだ彼の生涯を、軍都・江戸が「大江戸」として生まれ変わるようすと重ね合わせながら、ストーリーは進んでいく。

 前半は、信綱と町奴・長兵衛のふたりを軸に、江戸城内と城下の浅草とをいったりきたりしながら話は展開する。こうして復興の過程で江戸のインフラが整備され、世界一の大都市「大江戸」へと飛躍していくのである。

 なお、信綱がつくったのは大江戸だけではない。本領の川越を水と陸とで江戸と結んだことでできあがった「小江戸」もまた忘れてはいけない。

 こうして、『家康、江戸を建てる』と『東京、はじまる』『地中の星』との間を埋める新たな「東京をつくった人」の作品が登場した。こうして東京の歴史をプロジェクトX風にひとつひとつ描いていくことは、門井氏のライフワークとなるのだろうか。

 新聞連載小説なので、リズムが一定で、すらすらと読み進めることができるし、キャラクターの設定もわかりやすい。ただ難を言えば、信綱の姉・おあんと、その教え子であるおときの存在が、最後まで理解できなかった(このふたり、何しに江戸に出て来たん?)。これについては「きっと、おときを主人公とした後日譚を書くつもりなのだ」という勝手な解釈をしておきたい。

(こ)