小池和子『カエサル―内戦の時代を駆けぬけた政治家』(岩波新書)

『内乱記』を読んだ勢いで、カエサルの生涯についてきちんと知りたいと思い、読んでみることに。小池和子『カエサル―内戦の時代を駆けぬけた政治家』。

岩波新書から出ているカエサルの評伝である。

塩野七生ローマ人の物語』では情緒豊かに描かれた英雄・カエサル。本書はその生涯を、カエサルの著書『ガリア戦記』『内乱記』やプルタルコス『対比列伝』等の史料を手掛かりにしながら説明していく。

『内乱記』が未完成に終わった背景の考察が興味深い。著者によれば、これはカエサル自身の「自己矛盾」にあるという。『内乱記』でカエサルは、敵は共和政の伝統に反し、自由を圧迫しているのであって、この自由を取り戻すために戦うとしている。しかし実際には、戦後、カエサル自身が「終身の独裁官」になり、共和政の伝統に反した。それゆえこれに矛盾する『内乱記』は未完となり、生前に公表されなかったのではないか――と著者はいう。

カエサルの死後、オクタヴィアヌスの統率の下に、新たな国家体制が構築され、平和で安定した社会が実現する。カエサルはこれを、どう見たのだろう。

なお、本書の「あとがき」は、びっくりするほど簡潔である。これはまたこれで味がある。

小池和子『カエサル―内戦の時代を駆けぬけた政治家』


(ひ)