山極寿一『京大総長、ゴリラから生き方を学ぶ』(朝日文庫)

総長としての山極教授の評価はさておき、ゴリラの研究者としての評価は高く、松沢教授とともに京大霊長類研の看板教授であった。その霊長類研があっという間に解体され、諸行無常というものを実感する。

その山極教授が総長就任のときに書いたのが本書で、「おもろい」という発想が大事だとか、京都という土地は自由な発想を可能とするだとか、当たり障りのない話はどうでもよくて(たぶん井上章一先生の方がそのあたりの話はうまい)、やはり赤道アフリカの話とゴリラの話になると山極先生にしかできない話がごろごろと出てくる。

ゴリラは他の猿や動物たちと違って、強い個体が弱い個体に分け与えるという。それはチンパンジーでも人間でも見られることで、ゆったりと構えて群れを守るシルバーバックのオスには、風格すら漂う。そして食事をともにすることで、争いを避けて平和をつくる。

人には、それができる。

そして人には対話ができる。立場の違う相手を認めて、一緒に考える。
最近「アサーション」という言葉を知ったのだが、違いを認め合い、尊重し、ともに高め合っていく関係性を築くことが、結局は自分のためにもなり集団のためにもなる。

 

安倍元首相をはじめ、ウクライナで、パレスチナで、世界中で、理不尽な暴力の前に倒れているすべての方のご冥福をお祈りします。

 

(こ)