南原 詠『特許やぶりの女王』(宝島社)

第166回直木賞が発表されました。
受賞されたのは,今村翔吾さん『塞王の楯』と,米澤穂信さん『黒牢城』!
いずれもせんせいお薦めの作品です!
・・・では最近恒例の記念撮影を。

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今村翔吾『塞王の楯』・米澤穂信『黒牢城』

・・・2冊とも「圧」がすごい。
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さて。

前にもちらっと書いたけど,少し前まで知的財産権の専門部にいた。

特許侵害紛争は知財の「華」である。その特許侵害紛争がミステリになったというので,迷わず購入。南原 詠『特許やぶりの女王』。

凄腕の弁理士大鳳未来。ある日,大人気VTuber・天ノ川トリィの事務所に特許権侵害の警告書が送付され・・・。

実務家の目からすると,突っ込みどころ満載である。事実誤認では?と思われる記載もある。「現在日本で,まともに侵害を扱える法律事務所は片手で数えるほどのみ。全て大手だ。」(61頁)とあるが,特許侵害紛争の第一線で活躍している信頼ある法律事務所の数は,今ざっと思いつく限りでも10はある。しかもその多くは「大手」ではなく「中小」。・・・これ,読んで怒り出す弁護士さんとか出てくるのでは(うちは「まともに侵害を扱える法律事務所」ではないと言うのか!とか)。

あと,Amazonのレビューでも指摘されていたけれど,冒認を理由とする無効審判を請求できるのは「特許を受ける権利を有する者」に限られるので(特許法123条2項),××××は無効審判請求自体ができないはず(仮に請求したとしても,特許庁にあっさり門前払いされる。)。ここは話の重要なポイントでもあるため,さすがに文庫化の際には書き替えられるかも。

とはいえ,あまり小説に突っ込みを入れるというのは野暮というものだろう。物語自体は面白く,しかも疾走感がある。主人公のキャラも良い。「特許」「撮影技術」「VTuber」という専門分野についての説明も分かりやすい。何より読んでいて楽しい。今のような世の中,読んでスカッとするような小説はありがたいよね,と思いながら読了した。

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南原 詠『特許やぶりの女王』


(ひ)