上間さんはずっと若年貧困(とくに女性の貧困)の問題をエスノメソドロジーによって切り取ってきた教育社会学者である。ここ数年は地元沖縄の女性の性暴力に向き合っており、話題となった本も出している。
彼女の近刊が賞を取ったということで手にしてみた。沖縄の女性の話かと思えば、いきなり冒頭で彼女の学生結婚時代の顛末が語られる。「痛みを受け止める」ということに、彼女がどう向き合ってきたのか。物語はそこから始まる。
次に話は、彼女の少女時代にさかのぼる。難病で若くして亡くなった妹の話、そのころ祖父母とともに暮らした話、祖父の死、祖母。そして彼女は娘を授かり、その娘の飲む水道水が基地によって汚染され・・・。
こうして読者は、ゆるやかに現在の沖縄へと誘われてゆく。
膨大な彼女のインタビューデータと彼女の日常生活とが交錯しながら、沖縄の女性の「痛み」が静かに吐き出される。暴力の前に蹂躙される者の声である。
そして最後に、辺野古の青い海に、赤い土が投入される。
「沖縄の『痛み』にあなたはどう向き合うのですか?」
2021年ノンフィクション本大賞受賞作品。
(こ)