グレゴリー・ケズナジャット『鴨川ランナー』(講談社)

 「鴨川○○○ー」といえば、ホルモー一択だったのだが、ここに新しい選択肢が現れた。

 アメリカ人の「きみ」が、高校の時に訪れた京都と日本に魅せられ、英語ネイティブ教員として丹波の町に派遣されてくる。そこで経験する日本は、高校の時に感じたキラキラしたものではなく、「ガイジン」としていることのみ存在を許される、ただただのっぺりとしたものであった。「きみ」は次第に、その中に自らを融かし込んでゆく。その後、東京の大学に就職した「きみ」は、久しぶりに京都を訪れる・・・。

 第2回京都文学賞受賞。
 京都でなければならない必然性は、なさそうで、やはりどこか、ある。
 表題の「鴨川ランナー」ともう1つ福井が舞台の「異言(タングス)」の2本を所収。

 日本語を母語としない作者が文学賞を受賞することが、ここにきて続いている。
 本作もまた、英文学のテイストをベースに、翻訳文学ではない独自の日本語のリズムで、定住アメリカ人という存在を通して、一人称でなく「きみ」という俯瞰した場所から日常の光景を切り取っていく。

 作者は同志社大学に留学し、今は法政大学の先生をしている。専門は谷崎潤一郎。なるほど、どこか艶っぽい文体は、そのためか。

(こ)