谷崎潤一郎『吉野葛・盲目物語』(新潮文庫)

谷崎潤一郎の「文章読本」がよかったので,次は実践編をと思い,未読作の中から『吉野葛・盲目物語』を読むことに。

吉野葛」は,随筆かと思って読んでいくと,友人である「津村」の物語が挿入され,やがて母への思慕の情が美しく描かれるという展開。失われたもの,古きものへの思いが情感豊かにつづられている。

「盲目物語」は,戦国時代を生き抜いた盲目の主人公の一人語り。織田信長の妹・お市の方への思いが切々と語られる。ひらがなばかりで改行もほとんどなく,しかも古典的文体が用いられているため,かなり読みづらい・・・と思いきや,慣れていくと情景がすらすらと頭に入っていく。この技量は,正直,すごい。

両作品に共通して描かれているのは,女性に対する「思い」である。恋愛感情とはまた異なった,切々とした思い。まさに谷崎ワールドである。

巻末の解説は,なんと井上靖。豪華だ。

吉野葛・盲目物語 (新潮文庫)

吉野葛・盲目物語 (新潮文庫)


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